*70
「う、うぁぁ……っ!痛い、いたい……っ!」
気を失いそうになる程の痛みがイヴを襲う。
「頑張れイヴ!もう少しだ!」
「うん……っ!」
ローはイヴの手をしっかりと握っていた。
イヴはローよりも強い力で握り返して精一杯に力んだ。
「頭が見えましたよ!もう力を抜いて!」
助産師が言った。
「イヴ、もうすぐだ、もうすぐ……!」
小さな命が産まれた声がしたのはそのすぐ後だった。
ほぎゃあ、ほぎゃあと泣くその新しい命の声はイヴとローをひどく安心させた。
「元気な男の子ですよ!」
へその緒が切られると、イヴの腕に新しい命が置かれた。
「赤ちゃん……私たちの赤ちゃん……」
イヴは涙ぐみながらその小さな命に触れた。
「イヴ、良く頑張ったな……」
ローはそう言うとイヴと、イヴとの子どもを包み込む様に抱いた。
 ̄ ̄ ̄ ̄
『男ならガルフ、女ならソーラ』
ローはそう言っていた。
 ̄ ̄ ̄ ̄
「ロー、抱っこしてあげて」
「あ、ああ……」
イヴの出産から一週間が経った。
ローはまだ抱き慣れていない様子で、ベビーベッドからそうっとガルフと名付けた自分の子どもを抱き上げた。
ガルフはもぞもぞとローの腕の中で小さく動くと、ローの人差し指を掴んで口に入れようとした。
「それは乳じゃねェぞガルフ。おいイヴ、ガルフはお腹が空いてるんじゃねェか」
「えー、さっきあげたばかりよ」
ガルフはローの指を咥えた。ローは嫌がる素振りも見せずにそれを受け入れ、されるがままにした。
ローは愛しそうにガルフを見つめた。イヴもそれを見て目を細めた。
「この子は海賊になるのかしら、医者になるのかしら。それとも海軍?」
「さァな」
「『パパみたいに格好良い海賊になるんだ!』なんて言い始めたらどうしようかしら」
「好きにさせたら良いんじゃねェか」
「そうね。何にせよ元気に育てなきゃね」
「そうだな。大事にする、お前もこいつも」
ガルフはローの指を咥えたままうつらうつらと目を閉じ始めた。
「一番大事なのはあなたの命よ、ロー」
「……そうか」
感慨深そうにローは言ってガルフをまた愛しそうに見つめた。
← - 71 - →
back