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海軍本部の街中を、二つの傘が並んで歩いていた。尚も雨は降り続き、ぱたぱたと傘が音をたてる。
イヴがまた戻ってきた事をセンゴクに知られると色々と面倒だ、とローは三日月形をした島の端に船を着けて、二人が降りるとすぐに出港させた。

ローが傘を傾けちらりとイヴの横顔を見ると、イヴは暗晦な顔をして、ローが見ていることを気付く素振りも見せず、ただ前を向いていた。

広場に近付くにつれて、瓦礫の破片や地面のひび割れの箇所が多くなっていった。 イヴの気持ちも比例して沈んでいくが、その足を止める事はなかった。

イヴは何度となくこの地を歩いてきた。海軍に守られたいつも平和なこの街。ここでとてつもなく大きな戦争が起こるなんて。慕っていた人が死んでしまうなんて。
イヴがぼうっと歩いていると、瓦礫の破片に躓いた。ぐらっと身体が前に傾く。
咄嗟にローが持っていた傘を手離しイヴの身体を支えた。ローから手離された傘がふわりと地面に落ちた。イヴは小さく「ごめん」と言って体勢を立て直しまた歩き始めた。

二人の会話はそれきりで、ようやく広場に行き着いた時には、イヴはもう半日でも歩き続けたような気分だった。


海軍本部の建物は半壊、復興に向けて着手はしてあるものの、千戈を交えたその場所は、まだとてつもなく大きな傷跡を残していた。


「…………」


イヴは半分放心状態でふらふらと広場の中心へ歩を進めた。
ローはイヴの様子を気にしつつ、半歩後ろをキープしながらそれに続いた。


イヴが突然止まり、その場にしゃがみこんだ。手を伸ばして、冷たい地面に触れた。
そこには赤黒い染みが薄く広がっていた。


それがエースの血痕なのかは分からない。けれど、確実にこの場所で戦って、死んでいった。


込み上げる感情を我慢できず、涙が溢れた。
降ってくる雨の何倍も大粒の涙が次々と溢れ出てくる。自分の持っていた傘が手から離れて、役目を果たさなくなっている事にも気付かなかった。
イヴのすぐ後ろに立つローが、自分の持っている傘をイヴに寄せた。


ローは泣き続けるイヴに優しい言葉を掛けるでもなく、ただ嗚咽に揺れる背中を見つめていた。






「…………ロー……」

暫く咽び泣き続けたイヴが弱々しく呼んだ名前をローは聞き逃さなかった。

「イヴ」

ローが地面に膝をついてイヴを抱き締めた。


「もう悲しい思いはさせねェ」

「……うん」


イヴが後ろから回された腕をぎゅっと握った。


「ありがとう、ここに来て、良かった」

その声色は先程までとは違う、どこか吹っ切れたようなはっきりとした声だった。




「ローが救ってくれて、本当に、良かった」




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