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イヴが朝の光を感じて目を擦りながら開けると、共に眠りについた男の姿がなかった。
まだ微睡む頭をもぞもぞと動かすと、聞き慣れつつある靴の音が耳に入った。その音は段々と近付いてくる。
靴の音と共に、ざあざあという音も聞こえる。ああ、船は浮上していて、今日は雨なのか、とまた目を閉じそうなイヴは数秒経って理解した。
靴の音が止まるやいなや、イヴの髪を温もりが包んだ。


「イヴ、気分はどうだ」


頭を撫でられるのが心地よくて、再び眠りに落ちそうな感覚を振り払ってイヴが口を開いた。


「おはよう、ロー。気分は悪くないわ」


夜中まで飲んでた割には気持ち悪さはないな、と思いながらイヴが目を開けてごろん、とローの方を向くと、ローはイヴに軽いキスを落とした。ローは既に身支度を終えた姿だった。


「寝過ぎたかしら」

「問題ねェ」

「もうマリンフォード?」


イヴが上体を起こして窓の外を見るが、雨粒がたくさん落ちていて、景色が霞み、今どこにいるのか把握することが出来なかった。


「ああ」

「シャワー、浴びてくる」


小さく欠伸をしながら立ち上がったネグリジェ姿のイヴは、ゆっくりとシャワールームへ向かった。




酔いが覚めた後のシャワーは気持ちが良い。シャワーヘッドから出る程よい温度のお湯がイヴを濡らしていく。
いつもなら鼻唄でも出そうな気持ち良さを感じるが、今日はそんな気分にもなれなかった。

髪と身体を洗い、シャワーの蛇口を締めると、突然肩にバスタオルが掛けられた。イヴが反射的にびくっと驚いたのも束の間、ひんやりとした感覚がイヴを包んだ。
後ろから回された腕には見慣れつつある刺青が彫ってあった。シャワーのお湯で火照ったイヴの身体にはその体温が冷たく感じた。


「ロー、ありが……」


振り返りつつお礼を言おうとしたが、言い終える前にその唇が塞がれた。
唇同士が数回、離れては触れあうを繰り返した。
その間にイヴはローと向き合い、両腕を首に回した。イヴが唇を離して「ロー、服が濡れるわ」と言ったが、ローは何の返答せず口付けを再開した。

ローの舌がイヴの口内に入る。ローの舌の動きからはいつものような落ち着きは感じられず、愛情はありつつも支配欲に任せた激しさを伴っていた。

「ん……っ」


イヴはいつもと違うキスに困惑しながらぎこちなく対応する。どうしたの、と訊く隙など無かった。
ローはイヴの身体を欲するわけでもなく、ただ只管深い口付けを繰り返した。

その長いキスが終わる頃には、イヴの身体も冷え始めていて、ローの体温が暖かく感じていた。


「……何かあったの?」

「……いや、何も」


ローはそれだけ言うとすたすたとシャワールームを出ていった。
ローの行為が気になりつつも、イヴは冷めた身体をもう一度暖めた。

イヴが部屋に戻った時には、ローの姿はなく、鬼哭もいつも置いてある場所になかった。
着替えをして甲板への扉を開けると、しばらく止みそうにない雨がしとしとと降り続いていた。




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