*02



ピッ、ピッという心電図の音が手術室で等間隔に鳴る。

「心拍、血圧共に安定してます。」

ペンギンが心電図のモニターを見ながらローに伝える。

「峠は越えたな。もう少しだ。」

ゴム手袋を着けたローの手が素早く傷口を塞いでいく。


ローの予想通り、手術は簡単なものでは無かったが、何とか命は繋ぎ止められた状態で終わった。

「後は任せた。お前らで見張ってろ。意識を取り戻せばおれを呼べ。」

手を洗いながらローが手術室に居るクルーたちに言って、洗い終わると手術室を出て行った。



「船長も気まぐれだよな、この前死にそうな奴見かけてもスルーだったし」

「女クルーが欲しいのかな……」

「女が居たら華があっていいよなー」

「どうせ船長の女になるんだろうけどなー」


数人のクルーたちがそんな会話をしながら使用済みの器具を片付けた。








目を開ければ見知らぬ天井が見えて、口には酸素マスクが付けられ、腕からは点滴の管が通っていた。
ああ、誰かが私を助けてくれたんだ、とイヴは理解した。
身体を動かそうとするが重く、動かせない。頭を動かすのが精一杯だった。


「ペンギン、目を覚ましたよ!」とベポがイヴの顔を覗き込んで言うと、「船長に報告してくる」とペンギンが処置室を出た。


「船長、あの患者が目を覚ましました。」

結局イヴが意識を取り戻したのは手術から丸二日経っての事だった。
ペンギンが船長室に居るローに報告すると、ローは「そうか」と返事をしただけで、特に急いで様子を見に行くこともせず、ソファーに座ったまま本を読み続けていた。



「白熊が……喋ってる……」

イヴが意識を取り戻して初めて発した言葉だった。

「熊が喋ってスミマセン……」と落ち込むベポに「あ……ごめんなさい……」と弱々しい声で謝罪するイヴ。
すぐに立ち直ったベポが口を開く。


「あ、おれはベポ。きみが海の上で浮かんでるのを見つけて、船長が手術したんだ。まだ身体も動かせないだろうからゆっくり休んでてね。」

「ありがとう……」

「お礼なら船長に言って。」

と、ベポも処置室を出ると、入れ替わりでペンギンが戻って来た。


「今は点滴で痛み止めが効いてるから痛みは感じないだろう。何かあれば言ってくれ。」

ペンギンがイヴの口から鼻にかけて付けられていた酸素マスクを外した。

「ありがとう。あなたが船長さん?」と段々意識がはっきりとしてきたイヴが尋ねる。


「いや、違う。船長は後で来るみたいだ。」

「そうなの。あの、ここは……?」

「海賊船だ。」


ペンギンの言葉に一瞬目を見開いて、自嘲するように笑った。


「……そう。海賊に助けられたのか……」

「……海賊の気まぐれに感謝するんだな。」

「海賊に恩を売られる事程恐ろしいものは無い。私はこれから一生奴隷として働けばいいの?」

「さあな。決めるのは船長だ。」


そうペンギンが言ったタイミングで処置室のドアが開き、ローが姿を現した。


「良いタイミングで船長が来たな。」

イヴが頭を動かしてそちらを見ると目を丸くさせ、その男の名前を呼んだ。


「……"死の外科医"、トラファルガー・ロー……!」


イヴにとっては見覚えのある男だった。


「おれの名を知っているのか。」

「……ええ。……2億の賞金首ともなると有名になるものよ。」

ローの耳にはイヴが何かを言い淀んだように聞こえた。

「……お前がどこの誰で何故あそこで流されていたのか教えて貰おうか。ペンギン、後はおれだけでいい。」

「了解。」


ローに退室を促され、それに従ってペンギンは部屋を出た。




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