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全身に走る痛みがイヴを襲う。
顔を痛みで歪めつつも、溢れそうな涙を必死で堪えた。


「……来たか」

「そう……みたい……っ」


ローが部屋の時計にちらりと目をやった。イヴが最初に薬を飲んでからちょうど6時間経っていた。
机に置いていた遮光瓶からひとつ錠剤を掌に出すと、水と共にそれをイヴに飲ませた。


「じきに薬が効いてくる。それまで耐えろ」

「ええ……」



ーーーー



数時間前。


冬島を離れ、イヴの心を癒していたふたつの雪だるまがすっかり溶けてなくなり撤去された頃、イヴに食事を与えるのにも慣れ始めたローが、食事を終えたイヴを寝かせて説明した。


「そろそろ点滴による痛み止めをやめねェとならねェ。これは医療用の麻薬だ、これ以上使い続けると脳に後遺症が残る可能性が高くなる。それにやめることで、少しずつ身体も動かせるようになる」

「後遺症って?」

「記憶障害や幻覚などだ。これから内服薬を飲ませる。だが、これを飲めば次は最低6時間は開ける必要がある。個人差はあるが、それより前に薬の効果が切れて痛みが出てくる場合も少なくねェ。当然、飲んでから効くまでにタイムラグもある。」

「それでも、そうするしかないのよね?」

「ああ。」

「主治医が言うことは聞いておかなきゃね」

イヴが驚くことも怖がることもせず、表情一つ変えないまま了承すると、ローが点滴を外す作業に取りかかった。





ーーーー



じわじわと強くなる全身の激痛にイヴは歯を食いしばって耐える。
額からは汗が滲み出ていた。

「……っ!」

「痛ェか」

「だ、大丈夫……!このくらい……っ」

「あまり強がるな。」

「……エース……っ」


こんな苦しい時にイヴの頭に真っ先に思い浮かぶのは、あの太陽みたいに笑うエースの顔。
表情を変えなかったローがエースの名を耳にした瞬間、眉をひそめた。

あの顔をまた見るために、今は耐えるんだ。
イヴはそう言い聞かせるが、思い描いたその顔も神経がおかしくなってしまいそうな痛みでぼやけたものになっていく。

途端に、堪えていた涙が溢れた。


「"Room"」


その涙を目にしたローは、椅子に座ったまま自身の能力で自分とイヴを覆う小さなサークルを生み出した。

右手の薬指、小指を折り曲げ、それに必要な手の形にする。


「"シャンブルズ"」


ローがそう口にするとイヴを襲っていた痛みが瞬く間に消えた。
それだけじゃない、身体が動く。動いた手を見ると、甲と指に刺青があった。そして目の前にいるのは、痛々しい姿の自分だった。
頭が混乱する。


「え、私……?」

自分の声が、違う。身体が大きい。


「……おれの姿で"私"なんて言うんじゃねェ」

目の前の自分が、まるでローみたいに喋った。

「……船長さん?」

「ああ。精神を入れ替えた」


ローの姿をしたイヴはローの能力を初めて目の当たりにして驚き、目を見開いた。

「これが、あなたの能力……」

「どうだ、久しぶりの動ける身体は」

「そ、それより、痛くないの?私は平気だから元に戻して!」

微かに眉を寄せるだけで苦しそうな声も出さないイヴの姿をしたローに慌てて言う。

「このくれェ、何ともねェよ。それより折角だ、船の中でも見て回ってくるんだな。」

「で、でも……」

ローの姿をしたイヴが眉尻を下げる。

「その気持ち悪ィ顔も喋り方も止めろ。分かったらさっさと行け」

「いや、でも」

「さっさと行け!」

その見幕に押され、イヴは立ち上がって部屋を出た。




「……っく」

一人になったイヴの姿のローが、顔をしかめて奥歯を強く噛んだ。




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