完結
 田村三木ヱ門というクラスメイトがいる。
 顔は整っていて、女子も羨む可愛らしい目をしている。上の睫毛がくるんと上を向いているのも羨ましい。ただだからといって女子に間違われる顔をしているかといえば、そうではない。どちらかというと中性的な顔をしているが、雰囲気が男の子のそれだった。どうしてそう思うのか、私にもわからない。あえていうならば、可愛らしい目とは反して案外男らしい眉毛の存在だろうか。

 田村は文武両道でもあるらしかった。
 苦手な科目もあるようだが、今まで全教科のテストで七割を切ったことはないという噂だ。先週、部活で出場していた大会で入賞したらしく、表彰されていた。
 出来た男のように見えて、彼はとても年相応な男の子だった。同学年にライバルがいて、時々不機嫌な顔をして文句を言う姿を見かけたりする。ちゃかされれば顔を赤くし、文句を言う。お弁当の話で盛り上がっていることも見かけた。女の子に褒められると調子に乗ったりもする。

 田村三木ヱ門という男子生徒と特別親しくはなかった。何かあれば会話はするけれど、それだけ。友達かと聞かれたら違うような気がした。だからこうして少しだけほこりっぽいにおいがする部屋で、二人だけで一緒に片付けをしているのは少し不思議な感じがする。

「しかし、どうして私たちだけなんだ?」
「あと二人いたはずなんだけど……サボったんだろうね」
 
 田村は大きなため息と共にワイシャツの袖に着いているボタンを外した。アイロンがかかっている綺麗なワイシャツを気にする様子もなく腕まくりをし、「名字は重い物持たなくていいからな」と中にいろんなものが入っていた段ボールを持ち上げる。

 本来別の教室を掃除場所としていたが、明日この会議室を使用することになったらしく先生から変更をお願いされた。申し訳なさそうにする先生の顔を見て、とんでもなく大変な掃除なのではとここに来るまでは考えていたが、小さな会議室に置かれた段ボールや辞書などを元あった場所に戻すという簡単なもので、十五分もあれば終わりそうなものだった。


「名字、段ボールは隣りの準備室だったからやっといた。……あとは図書館に本を返せば終わりか」
「あぁ、田村ありがとう。ちょっと量あるね。田村部活の時間大丈夫? なんなら私やっとくけど」
「いや、大丈夫だ。二人でやれば一回で済むだろ」

 そう言って田村は比較的大きな辞典類を積んで抱える。残っていたのは田村の持っている物に比べると薄くて大型の持ちやすく軽い本ばかりだった。

「名字電気を消して教室を出よう。帰りはここに戻らないで教室に戻った方が近いだろ」
「うん。わかった。それと、田村は重いものばかり持ってるから……その、ありがとう」
「いや……こういうのも鍛練だろ」

 そう笑って、田村は尊敬している先輩がよく言う言葉を使った。
 田村は時々子どもっぽいところがあるとクラスメイトが言っていたのを私はふと思い出した。「ちょっと残念だ。やっぱり先輩の方が大人っぽくて素敵だな」と、残念そうに言ったその子の顔を思い出す。
 確かに田村は先輩方と比べたら子どもっぽいかもしれない。けれども私はそう簡単に物事を決めてはいけないのだなと知った。たった数十分関わっただけだったが、田村はとても優しくて頼れる男の子だと知ったからだ。

20150528
20160924 再修正

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