初恋



いつも二人で歩く夕暮れの道、今日は一人きり。

珍しくケンカをした。ケンカと言うより、怒られた。自分が悪い事は自分でもちゃんと分かっていた。

僕は彼の事をまだ信じていなかった。

自分の中では信じているし、かけがえのない存在だと思ってた。本当に大事だから、失いたくないから嫌われる事を恐れた。彼はいつもクラスの中心にいる人で、周りにはたくさんの友達が集まる。僕はそんな彼だから好きになった。誰にでも明るく接する彼が好きだと思った。

だけどそれがたまに、どうしようもなく寂しくなった。友達は僕だけじゃない、当たり前の事が嫌になった。

けど、そんな事を言える訳がなかった。僕は彼とはただの友達。彼を縛る権利は何処にもない。それに、そんな事を言って逆に距離を置かれてしまうのが怖かった。

そうやって、自分を制御して彼の傍にいたけれど、何もかも気付いていた彼は今日、僕を怒った。


『俺は不二にそんな辛そうな顔させたくて、友達になったんじゃないよ?』

実際は、怒っていなかったのだと思う。声も表情も、悲しそうだったから。だけど臆病な僕は、それを怒られたと捉えてしまった。言い訳さえも思い浮かばなくて、一言『ごめん』とだけ言って彼の元を去った。

嫌われたくないから謝る、その事自体が信じていない証拠だと、また彼に対して申し訳ない気持ちが生まれた。

でも好きなんだ。ずっと傍にいたい。誰よりも彼が好きで、誰よりも彼に好かれていたい。それは、友達よりも遥かに強い感情だった。



「…っ!?」



急に背後から強い衝撃を与えられた。何とか踏みとどまって転ぶ事を防ぎ、衝撃の正体を暴く。


「えい…じ」


振り返れば、顔を赤くしながら息を切らす彼がいた。何を話せばいいのか分からず、茫然としていると、呼吸を整えながら彼の口が開かれた。


「俺、もう不二とは友達になりたくない」

唐突に告げられた言葉は決別だった。一番恐れていた事を告げられ、僕は一瞬で泣きたくなる。

だけど、次の一瞬で僕は彼の腕に包まれた。


「ずっと好きだった!!一緒にいられるなら友達でもいいと思った!!けど、一緒に居ても辛そうな顔ばっかするから…、辛そうにしてるのに何も言わないから…、つい、あんな事言っちゃったんだ…」

「英二…、」

「…ちゃんと言えば良かったんだ。不二が好きだよって。とっくに友達として見てないって…、もっとワガママ言って俺を独り占めするくらい甘えていいんだよって…」


それは、告白と言う物なのだろうか。『友達として見てない好き』は、もっと深い愛情と思っていいのだろうか。

心の整理がつかないまま、彼の腕の中で戸惑っていると、彼は僕と目を合わせた。そして、涙が滲んだ目を拭い、これ以上ない程眩しく笑った。


「俺の、恋人になって」

そう告げられて、ああ、僕も君に恋をしていたんだなって今更気付いた。もっと彼の深い場所まで触れていいのだと、触れられる事を望んでくれた彼に僕は胸が苦しくなるほど愛おしさが沸き上がった。


「二度と…、離さないし、ワガママばっかり言うよ?」

「大歓迎、って言うかそうしてくれないと困る」


「じゃあ…、誰よりも、一番に想ってくれる?」


ずっと欲しかった願いを震える声で俯きながら呟いた。どんな場面でも、自分を一番に思って欲しい。それが僕が彼に願う最大のワガママだった。

彼の指が僕の目元を拭う。それで、僕は自分が泣いていると言う事を初めて知った。
そっと彼を見上げると、優しく笑ってくれた。


「もう、想ってる」


それだけ言って、再び僕を強く抱きしめた。最後の最後までその背中を受け止める事を躊躇ったけれど、その笑顔を信じてみたくなって、やっと受け止めた。

腕を回して触れた彼の背中は、僕たちを照らす夕日のように温かかった。





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にきさまの6万打企画にリクさせていただきました(^^)
菊不二です、ニヤニヤです(自重しませんでした←
英二男前…!理想の菊不二がここに…!
にきさま、ありがとうございました!そしてあっという間の7万打おめでとうございます


2011.11.09


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