君を守ると言う事



「・・・今日で君との関係は終わりにしたいんだ」


情事の後に聞かされた別れの言葉。
いつかは来るだろうと覚悟はしていたが
予想よりも早く告げられ一瞬戸惑ったものの、俺は受け入れた。



「なんや、付き合えるようになったん?」


「・・・うん」


「そら良かったな。おめでとさん」


元々俺たちは恋人ではなかった。
お互い、心の中には別々の人間が映っている。

傷を舐め合うような関係で、今まで癒し、癒されて
身体に収まり切れない欲望をぶつけ合って来た。


ただそれだけだった。



「・・・君は?」


「俺は相変わらずやな・・・」


「そう・・・」


「気ぃ遣わんでええよ。元々そう言う約束やったしな」


本当はこう言う事は良くないって分かっていた。
好きでもない相手を抱くなんて。だけどお互い縋らずにはいられなかった。そうでもしなければ折れてしまいそうだったんだ。

俺は彼を抱いた事を後悔していないし、きっと彼も抱かれた事を後悔しないでくれると思う。お互いがいてここまで来れたのだから。

だけど今更、友達と呼ぶには滑稽だ。友達は抱けない。
どういう関係にならなれるかと考えたけどどれにも当てはまらない。

彼は彼であったから何処にも位置付けられなかった。


だから何の関係を付けずにこのまま終わった方がいいだろう。
彼にはもう恋人がいる。俺の役目は終わったんだ。



「ねえ、最後にひとつ聞いていい?」


「なん?」



服を着た彼は未だに裸でベッドに沈んでいる俺の元へ寄り添って優しく髪を撫でた。
綺麗な指だと目を閉じてその心地よさを感じながら彼の言葉を待った。




「・・・君は、また誰か違う人を探すの?」


「せやなぁ・・・、おったらな」


口を濁したけれど、もう多分そう言う相手は探さないだろう。
自分との距離が近い人間だとリスクが伴うし、それなりに罪悪感もある。
彼が罪悪感を感じさせなかったと言えば嘘になるけど気持ちが軽くなった部分もあった。
そして、抱きたいと思うのは彼しかいなかった。




結論を出したら、無性に彼に触れたくなった。




「んっ・・・どうしたの・・・?」



深く舌を差し込んで交わすキスの合間に彼は俺に問う。

どうしたのって聞かれても俺も良く分からない。
急に触れたくなったんだ。


彼には返事をせず、そのままベッドへ組み敷いた。
着たばかりの彼のシャツのボタンを再び外しながら首筋に強く印を付けた。



「白石・・・?」



抵抗はしないものの、困惑している彼。
さっき終わりって言ったハズなのにと言いたそうな顔をしている。


そうだな、もう終わりなんだな。


こんなにも離したくないって思ってしまっているのに。



きっともう随分と前から答えは出ていたんだ。
初めは違う人間を好きでいて、そこから始まった関係だった。
けど彼を抱く度に彼が愛しくて、彼に慰められると彼が恋しくなって

そうやって、段々と惹かれてしまっていたんだ。




「いつの間にかお前を好きになってもうた」



彼に身を預けて、声を振り絞って伝えた。
今日で最後と言うのに、どうして言ってしまったんだろう。
ほんの数分前に気付いた感情ならばこのまま見送れる事だって出来たはずなのに。

そんな事を言っても彼が苦しくなるだけと分かっている。
分かっていたのに、言葉も行動も止められない。


やがて聞こえてくるすすり泣く音。
やっぱり傷つけてしまって、胸が痛んだ。



「ごめんな、もう何も言わんから。・・・早よ帰り?」



まず自分の身を起こして、それから彼の手を引いて起こし、もう一度謝りながらシャツのボタンを止めた。



「幸せになってな」


未だに泣いている彼を最後に優しく抱きしめた。
そして温もりを噛みしめて彼から身体を離す。



「・・・不二くん?」



俺は彼を離したつもりだった。
だけど彼はまだ俺の腕の中にいた。

彼が離さなかったからだ。


泣き声は更に大きくなって
どうしたものかと困惑の色を隠せない。



「不二くん、どないしてん・・・」



彼をなだめながら理由を訪ねると
一瞬だけ俺と目を合わせた彼は

止まることのない涙を流し続けた。





「何で・・・今になって、そんな事言うの・・・?」



俺の服の袖が皺になるくらい彼はそれを握り締めて
途切れ途切れになっても伝えようとする言葉。


その言葉に俺はやっと気付いた。





「僕っ、いつの間にか君を好きになってた・・・、でも君には好きな人がいるから言えなかったのに、やっと吹っ切れて、新しい恋をしようって決めて、こうやって・・・、なのに、何で最後にそう言う事・・・」



言葉の最後は嗚咽に消えた。
その瞬間、無意識に俺は彼を再び押し倒した。



理性が壊れるってこういう事なんだと初めて感じた。


奪いたい。
もう他の誰かのモノだと分かっていても、
自分のモラルに反する行為になってしまうけど

君だけは欲しいと思ってしまった。



「・・・全部俺の所為にしてええから・・・、ずっと傍におってや・・・?」



彼がそれでも行くと言っても
引きずり出して、自分の腕の中に閉じ込めたい。


遅すぎた告白だけど
今ならまだ間に合うと信じてる。


両手で顔を覆って泣いている彼の手を取り
その瞼にキスをした。




「一緒にっ・・・謝りに行ってくれる・・・?」


「もちろんや・・・」


「青学にいられなくなったらここに来てもいい・・・?」


「おん、大歓迎や」


「じゃあ、もし・・・」


「不二くん」



結ばれても心の底から幸せになれる訳じゃない事を彼は分かっていた。
相手への罪悪感、周りの反応、それが俺たちにとっての代償だ。


絶対に一人で背負わせたりしないから。
全部含めて守るからもう泣かないで。



不安を綴る彼の名を呼んで笑って見せた。
そしたら君も薄くだけど微笑ってくれた。



「明日・・・一緒に東京行こな?」


「・・・うん」



どんなに冷たい風が俺たちを迎えても
この手だけは離さないよ。









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にきさまの5万打企画にリクさせていただきました(^^)ありがとうございます!
蔵不二、お互いに本命ありという何とも書きにくいものをリクしてしまいましたが、何という素敵な蔵不二…!動悸…!
自分ではあまり書けませんが、わたしかなり蔵不二が好きだったりします(^^)
にきさま、5万打本当におめでとうございます(^o^)


2011.07.03


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