悠太が退院した。
日曜日に家に戻った悠太は何事もなく1日を過ごした。
後遺症もない。
祐希を忘れてしまったこと以外は。


同じ部屋にいても悠太と祐希はほとんど会話をしなかった。
何となく気まずくて、何を話したらいいのかわからなくて。
何も喋らなかったけれど互いに気にかけていたため、ちらちらと横目で様子を伺って、
目が合うと慌てて逸らして、の繰り返しだった。

次の日は学校に行かなければならないし、今日ほど気まずくはないだろうか。
でも、いつものメンバーで集まったら気が重くなるだろうか。
そんなことを考えながら祐希は眠りについた。



目が覚めると、悠太はすでに起きていた。
前の悠太なら起こしてくれたんだろうけど、等と考えている自分に気付いて祐希は苦笑した。
前の悠太なら、なんて、悠太は悠太なのに。
祐希のことを覚えていなくたって悠太は悠太だ。
それなのに、比べてしまうなんて。

久しぶりに1人で食べる朝食は、何の味もしなかった。



「ゆっきーおはよっ」


学校へ向かう途中、千鶴は祐希の姿を見つけて声をかけた。
飛びついたらうっとうしそうに振り払われた。
反応が薄いのはいつものことだが、普段の祐希なら拒絶することはない。
悠太が記憶をなくしてから祐希との距離が開いた気がする。
それを強く感じて、千鶴は思わず足を止めた。
その間にも祐希はどんどん先へ進んでしまう。
しばらく歩き始めることができず、千鶴はその場に立ち尽くした。


教室に入ると祐希は自分の席で突っ伏していた。
千鶴は祐希の傍に立ち、溜まっていた気持ちをぶつけた。


「ゆっきー」
「何」
「少しくらい…言ってくれてもいいじゃん」
「え…?」


祐希は顔を上げた。
千鶴の瞳はわずかに揺れていた。


「辛いクセにゆっきー何も言わないじゃん。
何で?オレだって要っちだって春ちゃんだっているのに…」
「…オレがいつ辛いなんて言ったの。それに…」


祐希は窓の外へと視線を向けた。
表情が見えない。


「千鶴には…関係ないじゃん」
「ゆっき…」
「席つけー」


千鶴がさらに言おうとすると、担任が入ってきてホームルームが始まった。
千鶴は何も言えないまま机に伏してしまった祐希を見つめた。





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2013.08.19


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