「悠太、りんご食べる?」
「あ、うん、頂こうかな」



悠太が入院して2日が経った。
昔の4人が写った写真や高校の体育祭の写真。
思いつく限りのものを見せてみたけれど、悠太の記憶はまだ戻らない。
祐希は棚から皿と果物ナイフを取り出し、器用に皮を剥いていく。
悠太はその指先を見つめた。


「はい」
「ありがとう」


りんごを皿にのせて悠太に差し出す。
悠太はそれを受け取り、口へ運ぶ。
病室にはしばらく悠太がりんごを咀嚼する音が響いた。


「あの…祐希くんはオレの弟…でいいんだよね…?」


りんごを食べ終えた悠太が尋ねた。
祐希はしばし悠太を見つめてから俯き、「そうだよ」と答えた。
それ以上の関係だったとは言えなかった。


「悠太はオレのお兄ちゃん…だよ」
「そっか。オレたちってすごく似てるんだね」


俯いたまま祐希はその声を聞く。
顔を上げることはできなかった。
今悠太の顔を見たら、気持ちがふっつりと切れてしまいそうで。
顔を上げない祐希を見て、悠太は悲しげな表情を浮かべ「ごめんね」と言った。


「本当に…何も覚えてないの…?」


祐希の問いに悠太は何も言わずに泣きそうな顔をした。
俯いていた顔を上げてその表情を見た祐希は、何かがぷつりと切れるのを感じた。


「覚えてないの!?ねえ!」


悠太の両肩を掴み、身体を揺さぶる。
悠太は困惑した表情を浮かべたが、止められなかった。


「あんなにずっと…傍にいたのに…っ」


悠太が悪いわけではないことはわかっていた。
それでも、抑えることなどできなくて。


「誰よりも近くで見てきたのに…誰よりも好きなのに…」


涙が祐希の頬を伝う。
滴がシーツに染みを作った。
悠太の前では泣かないと決めた。
そんな祐希の決意を無視して涙はどんどん滑り落ちていく。


「前みたいに笑ってよ、頭撫でてよ…」


「祐希って、呼んでよ…」



今目の前にいるのは誰よりも近くにいたはずの悠太で、なのに、悠太は誰よりも遠い。



「ゆう…き…」


悠太は祐希の涙に手を伸ばす。
頬に触れた指は前と変わらず優しかった。


2012.12.09




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