君へ



「(あ…)」


見覚えのある黄色い頭に、黒子は立ち止まった。




「黄瀬くん」
「っ!?」


公園のベンチに座って空を眺めていたのは予想通り黄瀬で。
影の薄さを活かして近づき、声をかければ、面白いくらい身体が跳ねた。


「黒子っち!?」
「お久しぶりです」
「や、昨日会ったッスけどね」


黄瀬は笑う。
昨日、とは黄瀬が青峰と試合をした日だ。
疲れが抜けきっていないだろう黄瀬に、黒子は「お疲れさまでした」と労いの言葉をかけた。


「負けちゃったッスわ」
「そうですね…でも黄瀬くんはベストを尽くしたと思います」
「ベスト…ね」


黄瀬は苦笑し、「でも届かなかった」と続けた。


「ずっと…勝ちたいって思ってたんすよ」
「はい」
「だけど…どうしても勝てなかった。
何となく…何となくだけどわかってた、どうして勝てないのか」


憧れてしまえば、越えられない。


「あのとき、何となくじゃなくてはっきりわかって、だから青峰っちに憧れるのをやめたんス」
「……」


黒子は黙って黄瀬を見つめた。
青峰に憧れるのをやめる。
簡単に聞こえるが、そのことが黄瀬にとってどれだけの意味を持つのか。
恐らく黒子の想像をはるかに超えているのだろう。
青峰のバスケが自分の世界を変えたと以前黄瀬は言っていた。
青峰は黒子とは違う形で黄瀬の光となっていたのだろう。


「けど、それでも勝てなかった。まだまだ弱いッスわ、オレも」


へら、と黄瀬は笑ってみせた。
この顔は無理をしているときの顔だ、と黒子は思った。
いつでも明るく、常に前を向いていると思われがちな黄瀬だが、試合に負けて悔しくないはずはない。
自分の弱さが原因だったのなら、なおさら。


「黄瀬くん」
「はいッス」


黒子は黄瀬の額へと手を伸ばし、そのままデコピンを食らわせた。
予想外の痛みに黄瀬は声にならない声を上げて額を押さえた。


「いきなり何するんスか黒子っちー!」
「黄瀬くんが言っている弱さって、笠松さんにパスしようとしたときのことを言ってるんじゃないですよね?」
「……」
「もしそのときのことを言っているのなら、それは違いますよ、黄瀬くん。
黄瀬くんは青峰くんにないもので勝負しようとした。でも届かなかった。それだけのことです。
勝てなかったのは青峰くんの実力が黄瀬くんの実力を上回ったから。その意味では黄瀬くんは弱かったのかもしれません。
でも、仲間に頼ったのは黄瀬くんの弱さではありません」
「黒子っち…」


黄瀬はゆっくりとまばたきをし、顔を伏せた。


「昨日ね、笠松センパイの決意を聞いたんスよ」
「はい」
「オレは青峰っちに初勝利が目標、くらいの気持ちだったんスけど、そのとき、海常を勝たせたいって思ったんス」
「はい」
「勝ちたかった」


強くなりたい、と震える声で言った黄瀬の頭を黒子はそっと撫でた。





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パスしなかったら勝てたかもしれない、仲間に頼ったお前の弱さだ、って青峰くんに言われて、どうしてあのときパスしようとしたんだろうって黄瀬くんは自分を責めたりしたのかなーとか
そしてそれを見抜いている黒子っち、とか
黄瀬くんと黒子っちはこのくらいの距離感が好きかもしれない


2013.01.24


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