夏の風物詩がお嫌いな方、ご注意下さい。
その後はお互い疲れているのもあって、すぐに床についた。
寝付きはよかった…筈だ。何せ学会と先刻の騒ぎでクタクタだったので。
このまま朝までぐっすりおやすみコース。かと思いきや、上條は夜半にふと目が覚める。トイレに、ではない。
何となく、外的要因で眠りが妨げられた感じ。
その原因は間近に感じる鋭い視線。
嫌な予感に反射的に掛け布団を被って、とりあえず視界を覆う。
視線の主は宮城教授、、、ではない。
舐め回すような視線は自分の知り合いからは到底想像がつかない。
隣で先に休んでいた上司のいびきは、いつの間にかやんでいた。
「かみじょう」
いびきの代わりに小さく囁く声。
「なんですか」
同じく上條も小声で返す。
お互い自然と小声になるのは、布団を頭から被っている為だけでなく、二人とも自分達以外の何者かの気配を感じているからだ。
「夜這いですかねー」
「教授の元カノですか?もうやめてくださいよ」
「いや、お前もなかなかあなどれんな。まさかオンナもイケるクチだとは」
「教授にそんな言い方されるのは癪です」
こんな所で掛け合い漫才をしていてもしょうがない。
「いるな」
「いますね」
確かに。誰かが。
勿論部屋はオートロックで戸締まりも念の為確認したので、他人が入り込める筈がない。
普通の人間なら。
「上條が今日泊まる予定だった隣の住人さんかな?」
「ずっとご滞在中の?」
こりゃまた迷惑なハナシだ。ずっと一所に居座ってくれればいいものの、わざわざこちらまでお出向きになるとは。
「まったお前も妙なモンに好かれたもんだな、かみじょー」
「たまたま妙な部屋掴まされただけですよ。俺のせいじゃないです」
朝になったら絶対ホテルに抗議してやる。
上條は固く誓う。
「で、キレーなお姉様の添い寝なら大歓迎!と言いたい所なんだが、生憎俺達今フリーじゃないんで」
「まあお帰り願いたいですよね」
「…かみじょー」
「イヤです」
「行ってこいかみじょー」
「だからいやですってば」
お互い布団の中での押し問答。
そんなその場の空気を打ち破るべく、突然上條の携帯が振動した。