夏の風物詩がお嫌いな方、ご注意下さい。
「ヒロさん」
「おっ、おう」
「今電話しても大丈夫でした?」
「う、うん。もう寝るだけだったし」
電話越しに響く優しい野分の声。
かかってきて嬉しい筈の電話。
ただ今日は、ちょっとだけ気まずい。
「…ヒロさん?」
「ん?」
「ヒロさん、今部屋に誰かいますか?」
ぎっくーん!
上條は慌てて辺りを見回す。
野分よ、何故わかる何故。
「あ、ちょっと今日の学会の件で教授が…」
「ああ、教授もいらっしゃるんですか」
教授も?
「だってヒロさんの耳元で女性の笑い声が聞こえるんですけど?」
は?
「ヒロさん、まさか教授に妙な事に巻き込まれてないですよね?」
ミョーなコトってどーゆーイミだよ、ソレは。
「ンな訳ねーだろ!最初っから教授と二人っきりだっての!!」
「ふたりきり…」
はっ。しまった。
再びトーンの下がる電話越しの声。
「いや、その、えっとだな…もう遅いし、教授もすぐ部屋戻るし」
まさかそのまま同じ部屋で一緒に夜を明かすだなんて言える訳がない。
「そうですか。まさかとは思いますが、浮気しないで下さいねヒロさん」
「バカか」
誰が浮気なんかするかっての。
「でもよかったです。今日もこうやってヒロさんの声が聞けて」
「…うん」
俺も、と言う代わりに小さく頷く。
「おやすみなさい、ヒロさん」
「おやすみ」
名残惜しそうにおやすみの挨拶を交わすと、どちらとも切らない間に何だか照れて、上條は自分から先にボタンを押した。