夏の風物詩がお嫌いな方、ご注意下さい。
ビジネスホテルの至って簡素な作りの部屋。
余分な物はないが、代わりに室内も凄く狭い。
そんな所にもう一台ベッドを運び込んだ為、室内は文字通り足の踏み場もない。
結果として一分も隙間もなくぴっちり隣り合わせにベッドを並べる事になってしまった。
まさか密室に一晩ヤロー二人でくっついて眠るハメになるとは。
宮城はこっそり苦笑いをする。
「もうしょうがないなー上條は。まさか一人寝が淋しいから俺と一緒に寝たい☆だなんて駄々こねちゃってー」
「冗談はやめて下さい…」
げっそりとした表情で上條はスーツの上着をハンガーにかける。
「マジヤバいですってあそこ」
「上條って霊感あったっけ?」
「知りませんよ。今まで感じた事もありませんでしたし。でも入っていきなり、ですよ」
ナニが?
上條の目が一瞬だけ泳ぐ。
「ナニって。ちょっと尻を触られただけで…」
宮城は笑う。
あはは、それはまた。
「それはまた随分と好かれたもんだな上條は」
「だからやめて下さいってば」
悪い悪いと言いつつ、宮城は全く気にしていない様子だ。
相変わらずいつもと同じのほほんとしたペースでごそごそとアタッシュケースを漁る。
「あ、上條。奥のベッド使っていいぞー。オジサンは明け方トイレに行くからなー」
はあ、スミマセン。ではお言葉に甘えて失礼します。
上條はよいしょと手前の一つ目のベッドを乗り越えて(そうしないと移動できないからだ)、本日彼の寝床となる奥のベッドへと進む。
と同時に、ブブブと携帯の振動音がなった。
「あ」
上條は胸ポケットの音の主へと目を向ける。
彼にとって、こんな時間帯にかけてくる人物といえば一人しかいない。
仕方なくその電話に出るべく、もう一度もと来たベッドを乗り越え入り口へと出ようとした上條を宮城は制した。
「いいっていーって。例の彼氏君だろ?俺はちょっと洗面所で歯磨きしてくるからその間にそのままドーゾ」
しかし…と言い淀む上條に、できるだけなるべく早くしてね☆と軽くウィンクを送って、宮城はそそくさとその場を離れた。
―あー俺も忍ちんにメール返さないと…。
洗面所のドアをバタンと閉めると程なくして、ぼそぼそと押し殺した声が聞こえてきた。