「僕は品のあ女性が好きなんだ」

「はあ」

生徒会長である赤司征十郎がいきなりそんなことを言い出した。副会長である私とよく行動を共にするけど、こやつ私に対してあからさまにイラついていることを隠そうとしない。おかしい、噂できく赤司征十郎は誰にでも優しいと聞いているのに、私にたいしては暴言を吐くわ顎で人を使うわで、私の中のこいつの印象は最悪だった。

「なのに君と来たら下品なネックレスをつけている。」

「悪かったわね、元彼にもらった思い出の品なのよ」

そう言うと赤司はフッと鼻で笑った。あ、馬鹿にしたなこいつ。しかし品のある女性が好きだとかぬかすだけあって、鼻で笑うのも上品で様になっているのだから腹が立つ。

「過去の思い出にすがっているとは哀れなやつだ。」

「うるさい、これを貰ったとき、私の中の砂糖がみっつ生成されたのよ」

「は?砂糖?」

赤司は「何言ってんだこいつ、頭おかしいんじゃないか」とクソムシを見る目で私を見た。私は気にしないでふふんと砂糖のことを説明してやることにした。

「胸きゅん指数を砂糖でカウントしてるのよ、まあバスケが恋人の会長に理解してもらえるとは思ってないけどね」

「バスケが恋人になれるわけないだろう。馬鹿なのか?いや馬鹿だったな」

「腹立つ!」

もしこれを話したのが他の女の子だったら赤司は「素敵な例えだね」とか言って微笑むんでしょ、知ってるよ。しかしこいつは私にだけ「君らしい陳腐な例えだ」とか馬鹿にしてくる。なんなのだこいつは本当に私のことが嫌いだなとイライラした。

あいつに話しかけた時は忘れもしない。生徒会の演説が始まろうとしていた間際、私は飴玉を取り出して赤司に渡した。

「お互い頑張ろうね!」

自分の緊張を紛らわすためもあったけど、なによりトップバッターで赤司が緊張してるんじゃないかと気遣ってのことだった。(今ならそんな心配いらないってわかるけど)すると赤司はふっと笑って、(その時の笑顔が綺麗だなんてあの時の私はイカれていたと思う)私にこう言い放った。

「飴玉を携帯しているとは、大阪のおばちゃんかな?」

……

「“本当あいつ腹立つ〜!”らしいわよ」

「…………。」

玲央がなまえの情報を流してくれる。分かりきっていることだが、自分の評価に落ち込んだ。なまえは副会長兼バスケ部のマネージャーでもあるので、玲央とも仲がいい。なまえがバスケ部に入ってきたのは生徒会の演説があった後で、僕がちょっと煽ってやったら入ってくれたので、チョロいやつだ。

「ちょっとは優しくしてあげたら?」

「……無理だ」

なまえのことは最初はなんとも思っていなかった。生徒会長を決める演説の直前に飴玉をわたされ、「お互い頑張ろうね!」なんて言われただけで落ちるとは思ってなかった。勝つことを絶対づけられてきた人生で初めて好きな人ができた。なんでも器用にこなせると思っていたのにこと恋愛に関してはこんなに不器用だとは思わなかった。眉間をおさえると玲央はカラカラ笑った。

「大丈夫よ!征ちゃんは素敵な人だもの」

そう言って玲央はウインクした。素敵な人……か、好きな人の前でもそうなりたいものだと僕はため息をついた。

……

「げえ」

生徒会の仕事があり、遅くまで残っていたある日のこと。急な雨が降り出した。そういえば夕方からの降水確率は70%とか言ってたっけ?そんなことを今更思い出しても意味ないのだけど。今日は部活も休みで玲央姉さんを頼れそうもないし、友達は皆んな帰っているしで誰も傘に入れてくれる人はいない。仕方ない、濡れて帰るかと1歩踏み出そうとしたとき、赤司に声をかけられた。

「こんな雨の中傘をささずに行こうとするマヌケがいるな」

「……。」

ジトっと振り返る。赤司はハッと馬鹿にしたように笑う。

「いや、傘を忘れたマヌケ、かな?」

「なによ、なんか文句あんの」

睨みつけてそう言うと、赤司は気にした風もなく私に歩み寄ってきた。

「僕の目の前を濡れネズミのようなみすぼらしい格好で歩いてもらっては困るな」

「あっそう、じゃあ先にどうぞ」

そう言ってどうぞと道を譲ってやる。しかし赤司は歩き出そうとはしなかった。

「困る……から、その……、入れてやってもいい」

「はあ!?」

なにがあった。言い方はともかく赤司が私に優しくしているだと!?天変地異でも起こるんじゃないか。

「会長熱でもあるんじゃないの!?顔赤いよ!!」

本気で心配して赤司の頬に両手で触る。すると赤司はさらに頬を赤くして目を見開く。

「黙れ、貴様は入る以外の選択肢はないんだからな」

そう睨まれて言われる。しかしちっとも怖くない。むしろ可愛いなんて思ってしまう。こいつは顔は一級品にいいので赤い顔して睨まれても拗ねた子供が駄々をこねているようにしか見えない。

「うん、わかった。ありがとう」

なんだかいつもの赤司じゃないみたいでつい素直にそう言ってしまう。赤司は驚いた顔をした。しまった、私が素直にありがとうなんてまたなにか言われてしまう。そう思って迎撃用意をするも、赤司は「ああ」と言っただけで何も言っては来なかった。

「雨ふるのかなあ……、あ、もう降ってるから槍?」

「……怒るぞ」

赤司は傘を開いて歩き出す。私も隣に並んであとについて行った。

……

私の家は駅を越えて徒歩20分ほどのところにある。駅についたのでここまでだなと赤司にお礼を言うと、赤司はきょとーんと目を丸くした。

「何を言ってるんだ?最後まで送る」

「は?」

今度はこっちがきょとーんとする番だった。こいつ本当に今日おかしいな、なにか変なものでもつまみ食いしたんじゃないか?

「会長本当今日どうしたの?なにかあった?」

「……赤司だ」

「へ?」

「僕の名前は赤司だ。」

そんなこと知ってますけど、しかし赤司が言いたいのは名前で呼べと言うことなのだろう。私はこいつのことを会長としか呼んだことがない。しかし今更名前なんてどうでもよくないか?そう思って赤司をじっと見ると、赤司も私をじっと見た。

「な、なんだい!いきなり!」

「……呼んではくれないか?」

そんなことを眉を八の字にして言われる。やめろ、私の中の赤司が壊れる。赤司は意地悪で私の天敵で……、しかし今日の赤司はなんだか違った。なんだか可愛いなんて思ってしまう。やばい、私の頭はついにイカれたか。そんなことを考えているあいだも赤司は根気強くまっていた。

「あ、あか……し」

「なんだ?」

そして蕩けそうな笑顔で笑うんだ。やめろやめろー!!赤司はそんな笑顔で私に笑いかけたりしない!!!さっきからの赤司の猛攻で私の頬はじわじわ熱くなっていた。するとピタリと赤司が私の頬にふれた。

「赤いな」

「だ、誰のせいだと!」

「僕か?」

赤司は嬉しそうにそんなことを聞く。私は言葉に詰まった。お前のせいだけど、認めたくない。そう思って無言を貫く。

「砂糖はいくつだ?」

赤司は今自分にときめいただろと明言した。見抜かれていることが悔しくて、嘘をついてしまう。

「ゼロ個だ!バカタレ!!」

「そうか」

赤司は「そうそう」となんでもない風に続ける。

「お前の過去の砂糖だが、僕が溶かしてやるからな」

「!!!」

まって、どういう意味?さっきからキャパオーバーなのに赤司はどんどん爆弾をほおっていく。頭が痛くなりそうだ。もうすでに砂糖が溶けかけているなんて、私は認めないからな。

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