期末試験が近づいてきたある日のこと。私は食堂でご飯をキセキの世代(今はそう呼ばれてるらしい)と黒子くんと食べていた。テストが近づいてきたことによって違うクラスの黄瀬くんが、私に勉強を教えてほしいと頼むついでにご飯を青峰くん伝に誘ってくれた。ちなみに青峰くんにはもう頼まれている。

「清水ッちを呼んだのは他でもないッス!」

「いいよ」

黄瀬くんが言い出す前に了承すると黄瀬くんは顔を輝かせた。

「流石清水っち!期末テストもよろしくお願いッスー!」

「期末テストも皆で集まるよね?」

私がそう言うと赤司さん以外皆どこか気まずそうにした。

「集まらないよ。テストくらい1人でどうにかできるだろう?」

赤司さんが飄々と答える。赤司くんとは違う対応に少し戸惑うも、赤司さんは個人主義なところがあるからかなと1人納得する。

「それより、そんな余裕があるのかい?僕と勝負するというのに」

「へ?」

なんのことだと首を傾げる。赤司さんは目尻を下げ微笑んだ。

「透は僕とテストの点数で勝負するんだよ」

「……え!?」

なんでそんな話になってるんだと困惑する。第1私は赤司くんにテストの点数で勝ったことが1度もない。赤司さんの学力がどれほどのものか知らないけど、多分私より遥かにいいだろう。そんな私となぜ勝負?というかそんなこと了承した覚えはない。

「僕、聞いてないよ」

「今初めて話したからね」

赤司さんは「負けた方には当然罰ゲームがあるよ」と言い放った。ちょっと待って。赤司くんはいつも不動の1位をキープしてたけど、私はいいとこ2位だ。そんな私が赤司くんの別人格である赤司さんに勝てるとは思わなかった。

「拒否権は……」

「あると思うかい?」

ですよねーと頭を抱える。赤司さんに負けたら一体どんな罰ゲームをさせられるかわかったものじゃない。えげつなさそうだ、すごく。しかし赤司さんも人の子、きっと付け入る隙はあるはずだ!と自分を奮い立たせる。すると黄瀬くんが申し訳なさそうに控えめに手を挙げた。

「俺らの勉強は……?」

「教えると自分も覚えるからね。」

安心して、と笑うと黄瀬くんと青峰くんはホッと息を吐いた。

……

テスト結果の発表の日、順位表を見に掲示板のところまで行く。そこにはすでに赤司さんがいて、私を認めるとにこりと微笑んだ。

「きたね、透」

「順位は?」

赤司さんは順位表を指さす。その方向を見るとそこには「1位、赤司征十郎」の文字が印字されていた。

「くそー!」

「当然だけどね」

赤司さんは涼しげに笑う。私は赤司さんだから負けて当然なんて思えなかった。今回はいつも以上に頑張ったのに、寝る間も惜しんで頑張ったのに。悔しそうにしている私に赤司さんは不思議そうにしていた。

「相手は僕だったんだから、予想はできてただろ?」

「僕は勝つつもりで挑んだの!」

そう言うと赤司さんは少し目を見開き、「そうかい」と微笑んだ。

「ところで、罰ゲームの件だけどね……」

「!」

きた、一体なにをやらされるのかと冷や汗がでる。しかし赤司さんは意外なことを提示した。

「ご褒美をくれないか?」

「……へ?」

なにかの聞き間違いかな?ともう一度言ってくれと指を1本たてる。赤司さんは気を悪くした風もなくもう一度繰り返した。

「透に勝ったご褒美を、1位をとった僕にご褒美をくれないか」

「……そんなんでいいの?」

てっきり無理難題を押し付けられると思っていたのに、赤司さんの罰ゲームは拍子抜けするくらい軽いものだった。赤司さんはクスッと笑った。

「……一つだけ条件があるんだ」

「なに?」

金額の条件かな?とたかをくくってたらやられた。赤司さんは「透が思ってるほど簡単なことじゃないよ」と言った。

「物を禁止する。」

「…………………………はい?」

モノを禁止するってどういうことだ?理解が追いつかない(理解したくないとも言う)私に赤司さんは追い討ちをかけた。

「例えばスポーツタオルだとか、美味しいお菓子だとか、僕に何かプレゼントすることを禁止する。」

「ええ!?」

相手にご褒美のあげる定番といえば何かプレゼントすることだというのに、それを禁止されたらなにをすればいいのか皆目検討もつかなかった。

「放課後までには考えておくんだよ」

そう言って赤司さんは自分のクラスに去っていった。……歩く姿はどことなく嬉しそうで腹が立った。

……

「青峰くん……」

「?」

早弁してる青峰くんに相談しようと話しかける。青峰くんは口に含んだものを嚥下してから「なんだ?」と聞いてくれた。

「ご褒美もらえるとしたら何が欲しい?」

「エロ本」

青峰くんは即答した。私はカウンターを食らって顔が真っ赤になる。

「そ、そんな俗なものじゃなくてね!」

「じゃあなんだよ?」

青峰くんは心底わからないと言った風に顔をしかめた。相談する相手間違えたかな。私は落ち着こうと咳払いを一つした。

「……なにかしてもらうとしたら、何して欲しい?」

「なんだよその質問、そんなの相手によって変わるだろ」

「確かに」

友達にしてほしいことってなんだろうと首を傾げる。青峰くんはまた弁当を食べだしてしまった。私は「ありがとう」と言って自分の席に戻った。

……

赤司さんは授業がすべて終わって帰りのHRも終わったと同時に教室に入ってきた。赤司さんの担任はそういえば早く終わらせるほうだったなと思い出し冷や汗がでる。まだご褒美は思いついてない。

「で、なにをしてくるんだい?」

「……申し訳ございません。まだ思いついてません」

こわごわそう言うと赤司さんは微笑んだ。

「じゃあ僕が部活に行ってる間に考えておくんだね」

明日じゃだめなのか、と赤司さんの厳しさを感じた。赤司さんはそう言うと颯爽と教室から去っていった。私は頭を抱えた。なにか考えないともっとヤバいことになる気がする。

……

バスケ部が終わる時間になっても、いい考えは浮かばなかった。少しでも時間を稼ぐために校門では待たずに自分のクラスで待機する。なにか、なにかいい案はないか……。うんうん唸っているとコツコツと誰かがこちらに向かって来る音がする。赤司さんだ……。どうしようと焦る。教室を内側から鍵かけるか?いやそんなことしたら後が怖い。赤司さんはそんな私のことなんてお構い無しに教室に入ってきた。

「なにか考えついたかい?」

意地悪くそう聞く。私が校門にいない時点で答えなんて分かっているくせに。しかしここで私に光明がさした。

「マッサージなんてどうですか!」

「却下」

赤司さんはキッパリと答える。え、却下とかありなの?めちゃくちゃ考えてやっと思いついたのに却下されたらもう後がないんですけど……。私はもうヤケクソだと、いつの間にか私の身長を抜かして私より高い位置にある赤司さんの頭をなでた。

「……よく、できました」

「…………………………………。」

赤司さんは黙ったままなにも言わない。やばい、滑ったか?と冷や汗がでる。しかし私は態度だけは毅然として、これがご褒美です!と主張するために頭は撫で続けた。

1分ほどなでつづけると、赤司さんの頭から手をおろす。赤司さんはなにも言ってくれないので内心めちゃくちゃ焦っている。赤司さんは沈黙を守ったままで、私は耐えかねて声を発する。

「あのー……どうでしたか?」

赤司さんを伺うと赤司さんはふっと息を吐いた。どうやら笑っているらしい。

「いや、よく考えたね。」

赤司さんはふにゃりと笑う。

「実をいうと思いつかないだろうと思ってふってみたんだが、まさかこう来るとは思わなかったよ」

私もヤケクソでまさか通るとは思わなかった。赤司さんのご褒美の琴線は謎だ。すると安心仕切っていた私に赤司さんは爆弾を落とした。

「思いつかなかった場合は透が本当に男かどうか確かめさせてもらうつもりだったけど……」

「!」

「よかったね」と赤司さんは不敵に笑う。私は体が震え出すのが分かった。疑われてる。赤司さんはもし私が男じゃなかったらどうするんだろう?軽蔑する??せっかく仲良くなってきたのに騙してることがバレたら嫌われるんじゃないかって、怖かった。それに赤司さんに伝わったら赤司くんにもつたわるんじゃないかって。

「どうしてそう思うの?」

恐怖で声が震える。こんなの自分が女だと言っているようなものだとわかっていても、どうしようもできなかった。

「まず声、無理して低くしてるようだけど、僕には分かる。」

赤司さんは指を1本たてた。

「次に腕力、男にしてはあまりにもなさすぎる。」

二本、指がたてられた。

「そして君の体は柔らかすぎる。筋肉がないとかそんなレベルじゃない。もう一人の僕は無理やり納得したようだけどね」

それってどういう……、私が答えをだすのを待たず、赤司さんは続ける。

「そしてなにより、僕は君が女性だったらいいなと思っているからだ」

「え?」

「わからない?」

赤司さんは「まあいい」と肩をすくめた。

「今は時期じゃないからね」

「なにを言ってるの……?」

赤司さんは私の耳元に顔を近づけ、息をふきかけるように囁いた。

「時がきたら教えてあげる」

「っ!」

ゾクリと体が震えた。頬が熱くなる。赤司さんは私の耳元から離れると私の手を引いて「帰ろうか」といつも通り、少し威圧感のある笑顔で言った。

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