「あれ?青峰くんだ。おはよう」

「おー、清水。はよ」

青峰くんはダルそうにあくびをした。なんでこんな時間に登校してるんだ?朝練は?

「朝練ないの?」

「来たくなかったらもう来なくていいってよ」

「え?」

青峰くんは煩わしそうにそういった。

「赤司くんは?許してくれたの?」

「お墨付きだ」

青峰くんはどこか投げやりに言う。赤司くんがそんなこと許してくれるなんて考えにくい。今日は昼休みに生徒会の仕事があるからその時に聞いてみようかなと思った。

……

昼休み、急いでご飯を食べて生徒会室に向かう。そこにはもう赤司くんがいた。

「赤司くん!」

「透か、早いね」

名前を呼ばれてびっくりする。赤司くんは私が赤司くんのことを名前で呼ばなくなってから苗字で呼ぶようになったから。

「……青峰くんに練習来なくていいって言ったって本当?」

「ああ」

私は赤司くんに違和感を覚えた。どこか雰囲気が違う。いつもの赤司くんじゃない。まるで別人のようだ。

「僕達レベルだと足並みを揃えても意味が無いからね」

「!」

違和感が確信に変わる。誰だろうこの人は?赤司くんは自分のことを“俺”という。それに赤司くんは優しい雰囲気を漂わせているのに対し、この人は優しさの中にどこか殺気のようなものが含まれている。まるで“自分に従え”と言っているような……。

「君は誰?赤司くんじゃないよね……。」

自分でも訳の分からないことを言っている自覚はあった。しかし、私はこの人が赤司くんだと認めることができなかった。私の目の前の人はふっと笑った。

「僕は赤司征十郎だよ。」

「…………。」

「ただし、透の知っている赤司征十郎とは違うかな?」

「!」

妖艶に笑う人の言葉に困惑する。どういうことだ?赤司くんはどこにいった??疑問はつきない。わからない。目の前で笑う人がただただ怖かった。

「僕は正真正銘赤司征十郎だ。ただ、人格が違う。」

「どういう……」

「こと」という前に赤司くんと名乗った人は私に詰め寄り私の腰に手を回した。

「離し……!」

なんでこんなことをするのか理解できず、抵抗しようと押し返そうとするも、片手をあっさり掴まれた。もう片方の腕で私を引き寄せた人の胸をおすけど、片手じゃ力が足りない。

「透は力が弱いね。まるで女の子のようだ」

「!!」

目の前の人はくすくすと笑う。この人は私の秘密を知ってるのだろうか?そのことにさらに恐怖する。

「一般的な言葉を借りると二重人格というやつだ。それにしてもこんなに早く気づくとは、流石透だ。」

「……っ!赤司くんは!?」

そう言うと目の前の人は悲しそうに眉を八の字に曲げた。

「僕も赤司だよ。きみの親友のね」

「僕の親友は赤司くんで君は違う!赤司くんはどうなったのさ!」

右目と左目で違う色をした人は肩をすくめると私を解放した。私は急いで距離をとる。

「そう警戒されると傷つくよ。」

「警戒されるようなことをしたのはどいつだよ!」

そう言うと二重人格だと言った人はにこりと威圧的に笑った。

「さっきの透の質問だけどね、眠っているよ。もう1人の僕は」

「……どうして」

威圧的に笑っている人は腕をくんで淡々と答えた。

「どうやら勝利至上主義の色が濃くなってきた部活や周りがどんどん才能を開花させ自分が置いていかれるような恐怖に耐えられなかったらしい。随分と悩んでいたようだね」

「!」

随分と悩んでいた。赤司くんはちっともそんなことは相談してくれなかった。いや私は赤司くんが辛そうにしていると分かっていたのに、人格が入れ替わるまで追い詰められていたのに、なにもしなかった。そんな自分が情けなかった。1番の友達なのに、いつか頼ってくれるのを期待してないで無理やりにでも話を聞けばよかった。気がついたら涙が零れていた。目の前の人はぎょっとしたように目を見開く。そして悲しそうな顔をした。

「そんなに僕が嫌いかい?」

「ちが……」

ずっと鼻をすする。目の前の人が嫌いとかじゃない。(まだ知り合ったばかりなのに嫌いとかない)ただ、なにもしなかった自分が情けなかった。赤司くんの支えになることができなかった自分が嫌になった。私は目元を乱暴に拭った。

「……自分が情けなくなった。赤司くんの支えになれなかった自分が」

「!」

そう言うと目の前の人は驚いた顔をした。そしてふっと笑って、まだ涙があふれている私の目元を拭った。その手つきがどことなく赤司くんに似ていた。

「そんなに強く擦っては瞼が傷ついてしまうよ」

目元を拭ってくれた人を見るととても優しい顔で微笑んでいた。いつの間にか威圧感はなくなっていた。

「もう一人の僕が君を気に入っていたのも頷ける」

「?」

「僕は透の親友だった赤司征十郎ではないけど、どうか僕とも友達になって欲しい」

そう言って手を差しだされる。私は頷いてその手を握った。

「よろしく、赤司さん」

「ああ」

「あと、ありがとう。」

「?」

赤司さんはなぜお礼を言われているのか理解できてないらしく、不思議そうに首を傾げた。

「赤司くんは君と交代するほど追い詰められたんだよね。追い詰められたとき、赤司さんは赤司くんを守ってくれたんでしょ?」

「だから、ありがとう」と微笑むと、赤司さんは「透は人がいいね」と笑った。

-9-

ホオズキと

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