6月3日、隣の家からガチャリという扉を開く音がした。もしやと思い、堅治くんにラインを送ってみる。
〈おかえり?〉
〈ただいま。よく俺が帰ってきたってわかったな〉
〈ドアが開く音がしたから、今日早いね。どうしたの?〉
〈そっちいっていい?〉
〈今更、どうぞ〉
そう返信すると窓がガラリと開いて「だよな」って泣きそうな顔をした堅治くんがいた。思った以上に早い来訪に私はベットから転げ落ちるように降りた。お母さんには皺になるからやめなさいとたしなめられた制服のまま。
「慌てすぎじゃね?」
「だって...」
そう言って笑う堅治くんはやはりどこか泣きそうで、私はいたたまれなくなった。
「それよりどうしたの?こんなに早く帰ってきて。」
「負けたから」
そう儚げに言う堅治くんをこれでもかというくらい目を見開いて凝視する。「目ぇこぼれんぞ」と堅治くんは笑う。そんな堅治くんを見ていると胸がきゅっと締め付けられて痛くて悔しくて泣いてしまった。
「なんでお前が泣くんだよ。泣きたいの俺だろ?」
「だって...」
ひっくひっくとしゃくりあげてしまう。堅治くんがどれだけ頑張ってきたか知ってるから。情けない。恥ずかしい。私に泣く資格なんてないのに。
「ごめんね、泣く資格ないのに」
そうしゃっくりの合間にねじ込むと堅治くんは私をぎゅうっと抱きしめてくれた。
「いいよ。変わりに泣いてくれてありがとうな」
堅治くんのその言葉を聞くと切なくて悲しくて余計に涙が溢れた。
......
私が泣き続けて数十分はたった。この頃になってくると切なさよりも抱きしめられている気恥ずかしさが勝ってくる。
「あの...二口くん。もう大丈夫、だから...」
離してという前に堅治くんが「もうちょっとこのままでいい?」と私の首筋に顔を埋める。さらりとした堅治くんの髪が私をくすぐる。ドギマギしつつ「いいよ」と答えると「さんきゅ」と言いつつ私の首筋に頭をぐりぐりこすりつけた。そのくすぐったさを耐えつつそっと手を背中に回すと、堅治くんの抱きしめる力が更に強くなった。
しばらくすると堅治くんはパッと私から離れた。堅治くんの体温を名残惜しく感じる。
「ありがとうな」
そう言う堅治くんの顔はどこか晴れ晴れとしていた。
「私なにもしてないよ」
そう言うと堅治くんはゆるゆると首を左右に振った。
「俺新キャプテンに任命されちった。」
「うそ!」
「ほんとほんと。」
なんとも大胆な裁定をしたもんだと思ったが、よく考えると堅治くんには似合ってるような気がした。
「頑張れ!新キャプテン!」
「おう。」
そう言って堅治くんは照れ臭そうに帰っていった。
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