さん今日は予報で雨が降るでしょう言っていたのに降らなかったなと無駄になった傘を眺めた。小学3年生になったある日の帰り道。いつもは友達と帰っているのだが、今日は1人だった。すると後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえる。振り返るとニヤニヤ笑った男子だった。ああ、これはとくるであろうことに待ち構える。すると男子は私のスカートをめくり上げた。
「五色のパンツは白!」
嬉しそうな男子に私は微笑ましく思った。パンツなんて見られて減るものじゃないし別に困らないし、可愛いなあなんて思って眺めていると男子はそんな私に驚いたのかたじろいで「なんだよ」と言った。するとまたもや後ろからけたたましい足音が聞こえてきた。
「姉ちゃんになにすんだよー!!」
「痛って!!!」
工くんだった。工くんは私のスカートをめくった男子に突進する。私は虚をつかれて目を丸くしていると男子は工くんにつかみかかろうとする。
「このっ!チビなにすんだっ!」
小学2年生と3年生の体格差は絶対で、殴られでもしたら工くんがひとたまりもない。私は工くんの胸ぐらをつかんで殴ろうとしている男子を横に蹴り飛ばした。
「痛て!」
男子は蹴りの衝撃で倒れる。私はランドセルを捨てて傘を構える。私は前世で中学生のときはソフトボールを、高校、大学と剣道をやっていた。蹴り飛ばされた男子がこちらを睨む。
「......工くんに手を出したら許さないから」
低い声でそう言うと睨んでいた男子は途端に泣きそうな顔になる。そして悲鳴をあげて逃げていった。
「工くん大丈夫?」
「姉ちゃんのパンツが......!」
工くんは悔しそうに頷いて唇を噛んだ。目にいっぱい涙をためて泣きそうな顔になる。
「私は大丈夫だか.....」
「大丈夫じゃない!!!」
工くんはバッと顔を上げる。その勢いで涙が一粒二粒落ちる。
「姉ちゃん避けれたでしょ!なんで避けなかったの!?」
「え、別に見られても困るものじゃないし......」
「僕が嫌なの!!」
工くんは悔しそうに眉を寄せる。嗚咽を漏らす。工くんはフェミニストかもしれない。パンツ一つでここまで気にしてくれるなんて。きっと工くんの彼女になる子は幸せに違いない。なんにせよ、工くんに泣かれるのは嫌なので、私は工くんをそっと抱き寄せた。
「ごめんね、もう見せたりしないから泣かないで」
「絶対?」
「絶対」
工くんは私の胸の中からその涙でキラキラ光った両目を私に向けた。工くんの双眸から涙が消え笑顔になる。
「もう絶対見せたりしないでね」
「うん」
私は工くんを離しでランドセルを拾う。
「帰ろっか」
「うん!」
そして二人一緒に手を繋いで帰った。こんなことできるのも今のうちだけだろうなあなんて寂しく思った。
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