懇願させて下さい
「あらいらっしゃい!五色くん」
みょうじの家に行くとおばさんが出迎えてくれた。今日も仕事で遅くなるからいないんじゃなかったのか!?正直みょうじのおばさんは苦手だ。みょうじと一線越えた翌日に会ったのだが「なまえともうヤッた?」と笑顔で聞かれて、頂いたお茶を吹き出した覚えがある。そこから根掘り葉掘り聞かれて躱すのに往生した。
「さ、汚いけどあがって!なまえは二階の自分の部屋にいるから!」
「お、お邪魔します」
ぺこりと頭を下げて上がらせてもらう。俺はおばさんに関わりたくないので急いでみょうじの部屋に行った。ノックをして存在を示すとすぐにドアが開けられた。
「こんばんは!五色」
「こんばんは、じゃねーよ」
中に入りドアを閉める。今日は金曜日で月曜日に範囲の広い小テストがあるので一緒に勉強しようということになった。ちなみに明日は部活も休みだ。じゃあ明日に回せばいいじゃないかと思うが、少しでも一緒にいたいというみょうじの要望だ。いつもデートなどできないのでこいつの我儘はできるだけ聞くようにしている。
「なんでおばさんがいるんだよ。仕事で遅くなんじゃなかったのか?」
「なんか早く終わったんだって。五色お母さん苦手だよね」
用意された小さな四角い机に対面になりながら言う。
「そりゃお前、直球で“ヤッたの?”とか娘の母親に聞かれて苦手意識持たないやつとかいないだろ」
「その件は本当に申し訳ないです......」
みょうじは申し訳なさそうにしながら勉強するためのノートや教科書を用意する。俺もみょうじに倣った。するとコンコンとドアがノックされ返事をする前に開けられる。
「飲み物持ってきたわよ」
「ありがとう」
みょうじは立ち上がって飲み物が乗ったお盆を受けとる。おばさんは部屋を見渡した。
「あらー、本当に真面目に勉強してたの。あんたの浮かれっぷりから勉強にかこつけてイチャつくと思ってたのに」
「お母さん!!!」
みょうじが真っ赤になって叫ぶ。みょうじはお盆を乱暴に机の上に置くとおばさんの背中をぐいぐい押して部屋から追い出した。
「もう!もう!本当デリカシーないんだから!!」
座ってみょうじが赤くなりながらプリプリ怒る。俺は少し嬉しかった。
「浮かれてたって......」
「っ!」
みょうじは面食らったように俺を見る。そしてぷいっと目をそらした。
「......悪い?」
「いや、」
俺は緩む頬を隠せなかった。もう何度もみょうじの部屋には来ているが、それでも浮かれるくらい喜んでくれるのは俺のことが好きだからだろう。俺はぐいっと飲み物をあおった。ブーっとみょうじのスマホが鳴った。みょうじはそれを確認する。
「五色!それ飲んじゃだめ!!」
「?」
なんだか体がポカポカしてくる。頬が熱くなる。頭がボーッとする。なんだこの飲み物は。そんなこと思っているとみょうじは机に崩れ落ちた。
「......飲んじゃった」
「おい、なんだこれ」
みょうじは無言で俺にスマホ画面を見せた。そこにはとんでもないことが書いてあった。
〈飲み物に媚薬いれちゃった!お母さん今日は友達の家に泊まるからお楽しみしていいよー!五色くんには泊まってもらいなさい。お父さんは今日は帰ってきませんので安心してね!五色くんの着替えはお父さんのを脱衣所に用意してるから!下着はコンビニで買ってきたやつだから安心してね!〉
「......は?」
「ごめん......」
その文面を読んだ途端ドクンドクンと心臓が大きく脈打った。俺は心臓を抑えた。
「......っ」
「五色大丈夫?」
みょうじが俺の隣まできて俺の頬に触る。そこから電流が流れたみたいな感覚に陥る。俺はその手を振り払った。
「いま、さわるな」
「ご、ごめん」
みょうじは傷ついたような顔をする。違うんだ、嫌なんじゃない。襲ってしまいそうで怖いんだ。俺は荷物をまとめて立ち上がった。
「かえる......」
「え?」
ドアに手をかけるとみょうじが後ろから抱きついてきた。
「やだ、帰らないで」
「っ!」
控えめに抱きしめられる。それでもみょうじの柔らかな体は意識せざる終えない。俺はドアに手をかけたまま問いかけた。
「......襲うぞ」
「いいよ」
「分かってるのか?今俺、抑えられる自信ないから。酷くしちまう」
「いいよ、」
そっとみょうじが離れる。俺はゆっくりみょうじの方を向いた。みょうじは俺の手を取り、手のひらにキスをした。
「っ!!」
「五色なら、いい」
「辛そうな五色を見たくない」とみょうじは悲しそうに言った。そんなにひどい顔をしているのだろうか、俺は。
「ばか、知らねーからな」
「うん、」
俺はみょうじを横抱きしてベッドまで連れて行く。仰向けに寝るみょうじに俺は馬乗りになった。ボタンを外す。ひとつ、ふたつ、みっつ。少し服をずらして肩に甘噛みした。みょうじから嬌声が漏れる。するとみょうじは少し起き上がって俺の首筋にキスをした。
「っ!」
「......好き」
なんでこいつは人が必死に抑えているのに煽るようなことをするんだ。できるだけ優しくしようと思っていたのに、ああくそっ。俺はみょうじの首筋に噛み付いた。
......
朝起きるとみょうじが横で寝ていた。スヤスヤと眠る横顔にキスを落とす。抱き寄せるとみょうじは「んん」と眠たそうな目を開けた。
「おはよう五色」
「ああ、おはよう」
みょうじはくすぐったそうに目を細めて俺の胸板に頭を預ける。肌と肌が触れ合って気持ちいい。
「腰、痛い......」
「悪い」
腰を撫でてやるとみょうじは甘い声を漏らす。
「手つき......いやらしい......っ」
そう言われてやんわり手を退けられる。もう一回シたいなあ。無理かなあなんて考えているとみょうじのスマホが鳴った。枕元に置いてあったそれを取り確認するとみょうじは「はあ!?」と驚愕の声を出した。
「なに?」
「昨日のあれ......、ただのブランデーだって」
「は......」
じゃあなんだ、俺は酒に酔ってこいつを襲ったってことか?そう考えると熱くなる頬を抑えることができなかった。
「五色のバカ!ただのお酒でなんであそこまでになるのよ!あー馬鹿らしい!腰いたい!!」
「あ!?プラシーボ効果って言葉を知らんのか!?てかお前だって気持ち良さそうに善がってたじゃねーかよ!」
「なっ!!!」
みょうじは効果音がつきそうなほど顔を真っ赤にさせた。そしてグーで俺の胸板を叩く。
「ばかばか!なんでそういう事言うの!?」
「痛てえっつーの!」
みょうじの腕を布団に押さえつける。
「もう一回シてもいいんだぜ?」
ニヤリと笑い、みょうじの耳元に口を近づける。
「今は、よく見えるな」
「っ!!」
わざと吐息交じりにそう囁いてやるとみょうじはびくりと体を震わせた。それが快感によるものなのか、はたまた違うものなのかは判断つかないけども。みょうじは顔を真っ赤にさせた。
「や.....、見ないでっ」
「やだ」
みょうじの体をマジマジ見ると、みょうじは羞恥で一杯なように目をギュッと瞑った。
「アホ...五色のバカ......」
「キレイだな......」
みょうじの表情はますます羞恥の色に染まった。
「もう一回シてぇ......」
「バカバカ!腰痛いっていってんでしょ!いい加減離しなさいよ!」
みょうじを離してやると、布団をかき寄せた。
「ふ、服着るから向こう向いてて!」
「何を今更」
「いいから!!」
仕方なしに向こうを向いてやるとみょうじは服を着だした。俺もその間に服を着る。
「もういいよ」
そう言われてみょうじの方を向く。首筋につけた赤い花が目につく。そんな痕にすら欲情する。俺はみょうじの首筋を撫でた。
「っ!」
「かわいい......」
俺の与える刺激にバカみたいに反応するみょうじが愛しくてそう呟くと、みょうじはじわりと頬を赤く染めた。
「き、今日はさ、外行くのやめよう」
「なんで?」
不思議に思ってそう聞くと(今日は部活が休みなのでデートしようと言っていた。)みょうじは言いづらそうに呟いた。
「五色に見えるところにその......つけられたし。」
「あ......、悪い」
「それに、今日は五色と触れ合ってたい......です」
どんどん語尾が小さくなるみょうじが愛しくて、俺はみょうじを抱き寄せた。おずおずとみょうじも俺の背中に手を回す。
「でも今日はもうやらないから」
「生殺しなんだよなあ」
苦笑すると、みょうじは「五色が酷くするからでしょ!」と少し怒った。
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