五色くんと昼ごはん
「五色、一緒にご飯食べよう」

「はい?」

そう言ったのは先日“友達”になったみょうじで、恥ずかし気もなく俺の友達がいる中、俺を昼飯に誘う。周りの友達はあからさまにざわついている。当たり前だ、つい最近まで接点がなかったクラスメート、しかもみょうじに誘われたんだから。みょうじは「先に屋上いってるから」とさっさと教室を出て行ってしまった。

「おい、お前みょうじさんとどんな関係なんだ?」

「ひょんなことから昨日友達になった。」

「なにがあったんだよ...」

友達は怪訝そうに聞く。みょうじはクラスで浮いていた。誰も寄せ付けない、孤高な存在なのだ。そんなやつと友達になったと言うものだから俺は心配されてしまった。

「どうすんだ?行くのか?」

「行くしかねーだろ」

行かなかったら可哀想だし、あいつぼっちだし、と同情心が湧いたんだと自分に言い聞かせる。決して嬉しいなんて事は無い。決してだ。そうして俺は屋上に向かった。

屋上についたら開口一番「遅い」と言われた。友達と飯食うのを蹴って来てやったというのになんだその態度はとイラッとする。

俺はみょうじの隣に座った。

「来てやったのに「遅い」とはご挨拶だな」

「と、友達になったんだから一緒にご飯食べるくらいいいでしょ」

と、少し顔を赤くして言う。そんな様子に俺の胸はドキンと鳴る。くそ、なるなよと自分の胸を叩くとみょうじに「なにしてるのよ、あんたM?」なんて言われるから俺の高鳴った胸を返せと思った。

「私、友達できたら一緒にご飯食べるのが夢だったの」

「は?」

こいつもしかして俺が初友達か!?みょうじは口を滑らせたことに気づいておらず、怪訝そうに見る俺を「なによ」と見つめ返す。大分寂しいやつだ。そういえばこいつは中等部からの持ち上がりのくせに中等部の友達がいる気配ないな...と思い出す。

「なんか成績のせいで皆んな変なイメージ私にもってるみたいなんだよね」

「成績?成績なんて黙ってればわからないだろ」

そう言うとみょうじはため息をついた。

「上位100人は掲示板にはりだされるでしょ...ああ、五色とは無縁だから知らないか」

なんてじと目で俺を見る。こいつはほんと一言多い。こいつの場合、成績だけのせいじゃないと思う。みょうじはカフェオレのパックにストローをさし、飲む。俺もご飯食べようと買ってきたメロンパンを開ける。するとみょうじが興味深そうにメロンパンを見る。

「それ美味しいの?」

「メロンパン?食ったことねーの?」

「得体の知れないものは食べないようにしてる」

得体の知れないものって、メロンパンはごく一般的なパンだ。こいつの常識どうなってんだ?とみょうじの頭を疑う。

「てかお前、飯はどーしたよ」

「は?あるじゃん」

「??。どこに」

「これ」

みょうじが眼前にまで示したのは飲んでいるカフェオレである。こいつ、これが昼ご飯なのか!?てか昼飯誘うんなら昼飯用意しろよ!と悪態をつきたくなる。みょうじは俺が苦い顔をしている理由がわからないらしく、キョトンとしていた。俺はしょうがなしにメロンパンをみょうじにあげることにした。

「ほらよ」

「?」

「やる!ちゃんと飯食え!」

「え、でも五色のじゃん」

「だからやるっていってんだよ。倒れられても困るからな」

「カフェオレ飲んでるし、倒れたことないんだけど」

「いいから受け取れ!」

みょうじはいかにも渋々といった感じでメロンパンを受け取った。そして小さな声で「ありがと」と言った。しかしいつまでたっても食べようとしない。俺は弁当を開けて先に食べ始めた。

「ねえ、これ美味しい?」

「美味いから食ってみろ」

みょうじは怖々と口に運ぶ。そして咀嚼すると目を輝かした。

「なにこれ美味しい!!五色!これすっごく美味しいよ!」

「だからいっただろ?」

俺は美味しい美味しい言うみょうじを満足そうに見た。なんだ可愛げがあることもあるんじゃん。半分ほど食べたところでみょうじもやっとメロンパンの味に慣れたようで落ち着いた。そして今度は俺の弁当を興味深そうに見る。

「五色のお弁当って美味しそうだよね」

「やんねーぞ」

「いらないわよ。ただちょっと羨ましいなって」

「は?」

「私お弁当作ってもらったことない」

「はあ!?」

俺の声にびっくりしたみょうじが「ちょっとうるさい」と悪態をつく。「遠足とかで作ってもらえるだろ!?」と聞くと「パンとかコンビニ弁当だった」と答える。こいつの食生活どうなってんだ。俺はそんなみょうじを憐れに思い、卵焼きを一つやろうと箸で掴み、みょうじの前に突き出す。

「?」

「なにやってんだよ。食えよ」

「!!」

するとみょうじは顔を赤くした。

「五色くん。これって“あーん”てやうじゃない?恥ずかしくないの?」

「!!」

そう言われて初めて気づく。てか「恥ずかしくないの」とか、こいつには言われたくない。男友達だらけのところ俺を誘ったこいつにだけは。俺は弁当と箸ごとみょうじに渡す。みょうじは「もらっていいの?」と遠慮がちに聞く。俺は「ああ」と返事した。

「どれにしようかな、唐揚げにしようかな」

「ぶっ殺すぞ」

するとみょうじはふふっと笑った。こいつ笑うとかわいいなとか不覚にも思ってしまいまた胸が高鳴る。くそ!またかよと胸をたたきたい衝動をぐっとこらえる。みょうじは結局卵焼きにしたようで卵焼きを綺麗な箸使いで食べる。

「うわ、舌にしみる。私が食べてきた卵焼きって添加物だらけだったんだなー」

「へ?お前卵焼き作ってもらったことねーの?」

「ない」

こいつの家庭はどうなってるんだ。ネグレクトでも受けているのか。ちょっとみょうじが心配になった。

そうして俺たちは昼休みを一緒に過ごした。みょうじは分かりにくいが嬉しそうにしていたと思う。その事実が俺をたまらなく嬉しくさせた、なんて認めてやるか。

......

放課後、部活の練習を終わらせて更衣室に向かおうと体育館から出ようとすると

「遅い」

体育館の外には体育館の側にしゃごみこんだみょうじがいた。みょうじは立ち上がると「いつまで自主練してんのよ」と文句を言う。

「は、え?何でみょうじが俺を待ってんだよ」

「なになにー?工の彼女?」

天童さんがひょっこり顔を出す。その顔は面白いものを見つけたもののそれだ。俺は超速で「違います!」と否定する。すると天童さんは大笑いして「そんな必死に否定しなくてもわかってるよ」と言った。いい先輩に変わりないが面倒な先輩でもある。

「ところで彼女はなんで工を待ってたの?」

「昼休みに五色にメロンパンもらったんです。そのお金まだ返してなかったから」

みょうじは天童さんから俺に向き直して「小銭もってないから他のでいいよね?奢る」と偉そうに言った。天童さんは不思議そうにみょうじに話しかけた。

「でもさ、それ明日でもよかったよね?なんで今日?」

そう言われるとみょうじ面食らったような顔をした。どうやらその考えには至っていなかったようだ。みょうじは言いずらそうにもごもごと「こういうのは早い方がいいと思って」と言った。

「嘘つけ」

「嘘じゃないし!」

「早く着替えて来いよ」とみょうじは高圧的に言う。こいつ、人のことアホアホ言うくせに自分も大概アホじゃないか。天童さんは爆笑しながら更衣室に向かった。俺も後に続く。

「いやー、あの子面白いな!」

「面倒なやつです」

天童さんはくくっと喉で笑った。

......

電車に行くまでのコンビニでシュークリームを奢ってもらう。みょうじも同じものを買って2人で電車までの道すがらもぐもぐとシュークリームを頬張る。ほどよいクリームの甘みが口の中に広がる。

「俺は運動してるからいいけどお前こんな時間に食ったら太...」

そう言いかけて、こいつは今より太った方が丁度いいなと思ったので口をつぐむ。しかしみょうじは俺がなにを言おうかわかったらしく、返事をくれた。

「大丈夫、大丈夫。これ晩ご飯だから」

「はあ!?」

俺は驚愕して大声をだしてしまった。夜の闇にはよく響く。通行人が怪訝そうにこちらを振り向く。俺は愛想笑いで誤魔化した。

「お前そんなんだから血色悪いんだよ!ちゃんと食えよ!」

「五色は私のお母さんか」

「ああ、本当のお母さんはこんなこと心配しないわ」と淡々と言う。本当にこいつの家庭はどうなってるんだ。ちゃんとご飯を食べるように念押しするとみょうじはダルそうに頷いた。

電車に着くと行き先が同じことが判明し、最寄駅まで同じことが発覚した。ここまで来ると送らなきゃ行けないだろうなと心が弾んだ気がするけど、きっと気のせいだ。いや、本当に。

みょうじは俺が送る言うと、ポカンとした顔をした。「間抜け面」と言うと「五色の顔には負ける」と大変失礼なことを言われた。みょうじの家までの道を聞くと2ブロックほどしか離れていなかった。なんという偶然。

家まで送るとそこはでっかいマンションだった。こいつ見かけによらずいいとこのお嬢さんか!

「でけー、いいとこ住んでんな」

「そう?こんなでっかい家、一人で住むにはあまりよくないよ」

「1人!?」

「ああ、一応お母さんいるけど、あの人たまに寝に帰ってくるくらいだから実質私の1人暮らし」

みょうじ家の事情を垣間見た瞬間な気がした。こいつのこの性格って両親にきちんと躾けられなかったせいではなかろうかと心配になる。

みょうじはマンションの入り口まで行くとくるりとこちらを向いた。

「あのさ五色...」

「?」

「心配してくれてありがと。嬉しかったよ」

「!!」

みょうじは顔を赤くしてマンションの中に去って行った。なんなんだあいつは、嫌みしか言わないと思ったら急に素直になったり、中々パターンがつかめない。

「くそっ」

俺は赤くなる顔を誰も見ていないけれど腕で隠したのだった。


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