少し弱った彼と
6月上旬、放課後。私は図書館で本を読みふけっていた。ひと段落ついたところで時計を見ると、もう閉館時刻が近くなっていた。私は読んでいた本を借りると図書館をでる。続きは家に帰ってから読もうかと考えてが、もう少しで読み終わるし、中庭のベンチで読むことにした。
中庭に移動し、ベンチに座る。そしてしばらく読んでいたら、本に影ができた。見上げるとそこには制服姿の二口がいた。
「お前こんなところで何してんの」
「本読んでる。てかもう練習終わったの?早くない?」
二口はどこか疲れたような顔をしていて、その質問をした瞬間、くしゃりと顔を歪めた。私は心配になった。
「...何かあった?」
二口は言いづらそうに少し逡巡してから口を開けた。
「負けた」
負けた、その言葉を聞いた瞬間私は目を見開いた。だって伊達工のバレー部は強豪で、そんなすぐに負けるはずない。大会は昨日始まったばかりのはずた。それでも、二口がそう言うのならそれは現実で、私は悔しそうに顔を歪めている二口を見ていると泣きそうになった。
何か私にできることはと考えて、私は自分の肩をポンポンと叩いた。
「私、本読んでるから」
二口は私の隣に腰を下ろして、私の肩に頭をもたれかけされる。私は本のページをペラリとめくった。
二口は泣かない。泣きたいほど悔しいだろうに泣かない。どころか弱音すら吐かない。私の前だかだろうか?いや、こいつはきっと1人でも泣かないだろう。意固地だから。なんて不器用なやつ。泣いた方が楽なのに。...私の前でくらい泣いてくれたらいいのに。そう思うと途端に悔しくなった。私に度量がないからこいつは泣いてくれないのだろうか?そんなことはないと分かっていても、それでも悔しかった。本の内容なんてちっとも頭の中に入ってこない。ポタリと雫が本に落ちた。
「...なに泣いてるの」
「泣いてないわ、バカ二口」
「先生死んじゃったから泣いてるの」
「これは違う本よ」
涙声の私に二口はふっと笑って、頭をすりっとこすりつけた。二口のサラサラの髪の毛がくすぐったい。
二口は私から頭を離した。そして私の顔を見て苦笑した。
「ハンカチ持ってる?」
私は二口にハンカチを無言で渡す。すると二口は私の目元にハンカチを当てがった。そして優しく涙を拭う。
「普通逆だろ、何で俺がお前慰めてるんだよ」
「じゃあ、泣きなさいよ。そしたら思いっきり甘やかしてあげる」
「ほんとかよ」
二口はまた苦笑して、「どんなふうに甘やかしてくれたの?」と言った。私は二口の後頭部を両手でつかんで私の方に引き寄せた。二口を抱き寄せる形になる。二口は面食らったようで、髪からのぞく耳が少し赤い。私は構わず抱きしめ続けた。
しばらくすると恥ずかしくなってきた。私はゆるゆると二口を解放する。二口は解放されたにも関わらず、離れようとしない。どころか私の背中に腕を回す。今度は私が赤くなる番だった。
「明日も甘やかして」
「...なにして欲しいの」
赤くなる顔を見られたくなくて、私は二口の肩に顔を埋めた。二口は「差し入れ」と一言言った。
「差し入れ持ってきて」
「分かった。いいよ」
そう言うと二口はパッと離れた。二口の体温を名残惜しく感じる。抱き締められているときは早く離れたかったが、離れるともっとと思ってしまうから不思議だ。
二口は綺麗に微笑んで「楽しみにしてる」と言った。