「猿比古くん?おーい」
ブーっとタンマツを鳴らすもスタンバイ状態から立ち上がる気配はない。完全に忘れて学校に行ったなとため息がでる。猿比古くんがいないとつまらないなぁと私はまた深くため息を吐いた。自分の体に戻ってなにかするか?と思うも、何もすることはなく、猿比古くんがいないと本当にすることがないのだと自嘲する。帰ってくるまで待ってるかと腹をくくる。するとドアがガチャリと開く音がした。私は猿比古くんが戻ってきたんだ!と嬉しくなってタンマツを鳴らす。スタンバイ状態が解除され、真っ暗だった空間に光が差し込む。
「もう猿比古くん!忘れるなんてひどいじゃないですか!」
「あ?誰だお前」
「!?」
そこには猿比古くんそっくりの男の人が立っていた。お父さん...にしては若いからお兄さんかな?そう思いつつ怪訝にお兄さんを見つめる。お兄さんは愉快そうに私を見つめる。
「なにあんた、お猿の友達?スカイプかなんかか?にしては窓がないし体全体うつってるよな?何者だ?」
「私はプログラムのなまえっていいます」
「プログラムぅ?」
お兄さんは口元を嬉しそうに歪めた。
「なに?お猿が作ったの?」
「私みたいなスーパーAIがいち中学生に作れるわけないじゃないですか」
「だよなぁ」
お兄さんはくくっと喉で笑った。
「なぁ、お猿どこ行ったか知らね?」
「お猿って猿比古くんのことです?猿比古くんなら学校行きましたよ」
「タンマツ忘れて行ったのか、ダセー」
ぎゃはっとお兄さんは笑う。笑って猿比古くんが組んだプログラムを弄ろうとする。私はそれを焦って阻止した。
「おい、邪魔すんなよ」
「いやいや、なに勝手に触ってるんですか!?猿比古くんが一生懸命組んだのに!」
「だからだろ」
「ところでお前はお猿の大切なモノなのか?」とお兄さんは意味不明なことを聞いてくる。
「は?」
「だから大切なモノかって聞いてんだよ」
私はため息を吐いてじと目でお兄さんを見つめる。
「そんなわけないじゃないですか。」
「そーなの?」
「毛ほども大切に思われてないですよ」
自分で言ってて泣けてきた。むしろウザがられてるんだろうなぁと思うと本当に泣けてきた。私は目元をゴシゴシこすった。私の泣いてる姿をお兄さんは興味深そうに見つめる。
「泣けるプログラムとは恐れ入った。なぁお前、俺のタンマツに来ないか?」
「はい?」
「お猿の大切モノじゃないらしいけど、お前気に入ったわ。俺のところこいよ。」
「これ俺のアドレスね」とお兄さんは猿比古くんのタンマツに自分のアドレスを打ち込んでいく。私はそれをぼーっと見ていた。するとドアがバンっと開いて猿比古くんが入ってきた。
「!。俺のタンマツに何してやがる!」
そう言ってお兄さんからタンマツをひったくる。お兄さんは不満そうな顔をして猿比古くんを見る。
「なんだよ邪魔すんなよ。今なまえちゃんを勧誘してるとこなんだから」
「!?」
猿比古くんは焦った顔をしてバッと私を見る。焦った猿比古くん珍しいと呑気な感想がでた。
「おい、お前。こいつになにかされたのか!?」
私はブブッとタンマツを震わせた。
「されてませんよ。お兄さんが猿比古くんのプログラム弄ろうとしてたので阻止しました!褒めてください!」
目に見えて猿比古くんが安心する。よっぽどプログラムが大切なのだろうと。これ守った私ってえらくない?と一人でドヤ顔をする。お兄さんは顔に手を当てて愉快そうに猿比古くんを見る。
「なんだ、やっぱり大切なモノなんじゃねーか。ぶっ壊しておけばよかった。」
お兄さんがそういうと猿比古くんはジロリとお兄さんを睨む。そして扉を勢いよく閉めて部屋から飛び出した。そして家の外にでて足早にどこかに向かう。
「おい、本当になにもされてないんだろうな?」
「私はなにもされてませんよ?あぁ!そういえばアドレス渡されました。」
そう言いつつお兄さんのアドレスを表示させると猿比古くんは速攻でアドレス先を消した。
「いいんですか?お兄さんのアドレス消して」
「...あいつは父親だ。」
「お父さん!?」
わかっ!と思うも、最近は若い人も増えてきているし珍しいことじゃないのか?と自分を納得させる。
「にしても、中々なお父さんでしたね」
「あいつは俺に嫌がらせすることに全力傾けてるやつだからな。もう会うな」
猿比古くんは心配そうに私を見る。私もお父さんに影響されて嫌がらせされるとか思われてるのかな。そうなら不本意だ。私はブブッとタンマツを振動させ、唇を尖らせた。
「私は猿比古くんに嫌がらせなんてしませんよ」
「存在自体が嫌がらせみたいな奴が何言ってんだ?」
「!!」
確かに口うるさく猿比古くんに小言言ってるけど!そうだけど!と私は拗ねてそっぽを向いた。するとフッと猿比古くんが笑う気配がした。それに釣られて後ろを向くと猿比古くんが少し、ほんの少しだけ口の端を上げていた。
「冗談だ。間に受けるな」
その顔に胸の奥がキュンとなる。私は何だろうと胸を押さえた。
「そういえば猿比古くん、学校は?」
「...............。」
猿比古くんは気まずそうに目をそらした。
「行きますよ!今からでも!」
「うるせぇ、分かったよ」
猿比古くんは舌打ちを一つして学校の方向に進路を変える。胸の奥が高鳴った理由を知るのはまた未来の話である。