私の家はいわゆる名家で、父は大きな会社を経営していた。
元々運動神経はいい方で、外で遊ぶのが大好きだった。父はそんな私が自慢だとよく目を細めて言ってくれていた。だから、なぜこんな能力に目覚めたのか分からなかった。
たくさんのpcが並ぶ場所、(もちろんネットは繋がっている。)そこで私はいきなり気絶した。目を覚ますと私は電子の海に放流されていた。デスクトップの窓に手をつく。そこからは必死に私の体に呼びかける父がいた。
「父さん!」
私は電子の海から父に呼びかける。混乱する頭で考えていたのは父ならこのネットの中に閉じ込められている状況をなんとかしてくれるのではないかという一縷の希望があった。
「!?」
父は声をした方に目を向ける。父とpcの中の私と目が合う。
「だれだ貴様は!どこから現れた!?」
父はひどく困惑していて、私と認識してくれなかった。(後で分かったのだが、pcの中の私目の色や髪の色、年齢が完全に元の私と違っていたのだ。)
「何言ってるの?なまえだよ!?」
それでも信じない父に私は父と私しか知らない思い出をまくし立てた。そこでやっと父は私と認めたようだった。
「まさかお前がストレインだったなんて...!」
「へ?すと...。なに??とにかく助けてよ!ここから出して!」
「うるさい化け物め...!」
そう苦々しげに吐き捨てた。父は「成人までは養ってやるが、お前はもう娘じゃない!」と言った。私は目の前が真っ暗になった。
数年がたった。私はコツをつかみ、ネットと現世を行き来できるようになった。私の能力はネットを繋いでるものがそばにあれば元の体は意識は失うがそこから電子の海に飛び込めるというものだった。父に見捨てられてから私は学校に行くことを禁じられた。いつ私の能力が暴走するのかわからないから、らしい。本当は世間にみょうじ家からストレインがでたことを知られたくないのだろう。ストレインのことを調べたが、父はひどい偏見をもっていると思った。家の名に泥を塗りたくないのだろう、戸籍課にも申告してないようだった。部屋に引きこもり自分のpcからネットにダイブする。最初こそ面白かったものの、段々やることがなくなり飽きてくる。いっそどこぞの企業にハッキングしてやろうかとも思った。(今の私にはそれができる。)しかしそれをする前に私は最高の暇つぶしができた。一人の少年と出会った。
......
中学一年になった俺は入学式を終え早々に家に帰った。話しかけるなオーラをだしていた俺には誰一人話しかけてきやしなかったけど、周りは友達を作ろうと必死になっていた。その姿をみるだけで吐き気がする。俺は舌打ちをし鞄を部屋の隅に投げ捨てベットに転がり、タンマツをだしてゲームをする。いつまでそうやっていたのか、窓の外を見るとあたりはすっかり暗闇に包まれていた。部屋の中は灯りをつけていないので当然真っ暗で、タンマツの光だけが青白く俺を照らしていた。するとタンマツがブブッと震えた。どうやらメールが来たようだ。俺は何だと思ってメールを開いた。するとそのメールから青白く発光した中学生くらいの少女が現れた。俺は目を点にして瞬いた。少女も目をパチパチさせた。しかし次の瞬間にはニコリと微笑んだ。
「初めましてー!なまえって言います!どうぞよしなに」
「は?」
なんだいきなり、こいつは何だ?なんかのプログラムか?俺が混乱していると少女はキョロキョロと辺りを見回す。
「殺風景な部屋ですね、もっと物置かないんですか?」
「いや、お前なんだよ」
どうやら俺の部屋を認知して喋れるだけの知能があるらしい。なら会話もできるのか?と思い話しかけてみる。少女はニコリと笑った。
「ただの高性能なプログラムですよ!」
やはりプログラムか。しかし人と会話できるプログラムって何だよ。誰が組んだんだよ。謎は尽きない。しかしそんなことはどうでもよかった。俺は1人になりたかった。プログラムと会話するなんてアホみたいなことまっぴらごめんだ。なので俺はこいつを消すことにした。誰かがメールでこいつを送ってきたんだとしたら、元があるはずだ。そいつを探して消せばいい。俺はタンマツを操作してこいつらしいプログラムを探す。しかし、俺がいれたアプリや組んだプログラム以外見つからなかった。愕然としていると少女はニヤっと笑った。
「探しても無駄ですよ、私はプログラムであってプログラムじゃないんです。」
俺の絶望感を読んだのか、少女はそう言った。タンマツの電源を落とせば消えるか?嫌、これだけ高性能なのだから電源を落としただけじゃ消えないだろう。じゃあタンマツを変えるか?データの移行が面倒だし、移してる最中にこいつはついてくるだろう。八方ふさがり、打つ手なし。俺はタンマツの中の少女を睨んだ。すると何が面白いのか少女はふふっと笑った。
「少年、綺麗な顔してるんですから睨むんじゃなくて笑ってくださいよ」
「お前が消えたら満面の笑顔でも何でもやってやるよ」
「“お前”じゃなくて“なまえ”ですってば!」
少女は唇を尖らせて抗議する。そして不穏なことを続ける。
「これから一瞬に暮らすんですから、名前で呼んでください!」
「.........は?」
何言ってんだこいつ?余程怪訝な顔をしていたのだろう。そいつは更に説明を加えた。
「だから、これからこのタンマツに住むって言ってるんです!よろしくお願いしますね!えーと、名前なんて言うんです?」
は?俺のタンマツに住む?住むって何だよ?
「ちょっと、聞いてます?名前なんていうんですか?」
「...教えるわけねーだろ」
そういうと少女は少し唸ってパッと顔を輝かせた。
「分かりました!じゃあ勝手に呼びますね!坊っちゃん!」
「.....................伏見猿比古だ。」
坊っちゃんと呼ばれた瞬間全身に鳥肌がたった。坊っちゃんと呼ばれるくらいなら名前を明かしたほうがマシだと判断した俺は不本意ながら名前を教えた。少女は嬉しそうに笑った。
「猿比古くん!」
「おい、名前で呼ぶな」
親しくもないくせに、と思ったが、俺の名前を呼ぶのは片手で充分足りるし、親しい友達もいないなと自嘲する。少女はなおも嬉しそうに笑う。
「なんでですか?いいじゃないですか猿比古くん!猿比古くんも私のこと名前で呼んでくださいね!お前とかじゃなく!」
「呼ぶわけねーだろ、消えろ」
少女は不本意そうにブブッとタンマツを震わせた。