国見ちゃんのクラスメート | ナノ
無事赤点を回避でき夏休みに突入した。私は国見くんを描いていた。何回描き直しても納得ができず何枚も紙を無駄にした。
「んあー!」
私はベッドにダイブする。なんで上手く描けないんだろう。今まで人なんてあまり描かなかったから?時計をチラリと見ると時刻は午前11時を指していた。今日もバレー部は練習をやっているはずだ。見学に行こう。気分転換にもなるしもしかしたら取っ掛かりができるかもしれない。それに国見くんに会えるかも。そんな邪なことを考えている自分がいてぶんぶん首を振る。私は制服に着替えた。
体育館を覗くとバレー部がバレーシューズをキュキュっと鳴らして練習していた。入ろうと思うも、夏休みにギャラリーはいなかった。及川さんのファンに紛れて覗こうと思っていたのにこれでは空振りだ。どうしよう、恥ずかしいの我慢して入ろうか。しかし1人だ。私は迷った末に帰ることにした。くるりときびすを返して歩き出そうとする。
「!!?」
後頭部に勢いよくなにかが当たった。私は前のめりになり倒れそうになるのをなんとかこらえる。しかし目の前が二重に見えてしゃがんでしまった。体育館から「及川ボケー!」なんて声が聞こえる。
「どこ飛ばしてるんだよ!...ってみょうじ!?もしかして当たったのか!?大丈夫か!?」
岩泉先輩が私のそばにくる。私は大丈夫ということを示すためにこくこくと頷いた。
「みょうじ!?」
「みょうじちゃんごめん!大丈夫!?」
中から及川さんと国見くんが出てきた。
「だ、大丈夫です......」
そう言って立ち上がろうとするもふらついてまたしゃがんでしまう。
「脳震盪おこしてるかもしれねーな。保健室行った方がいい」
「俺が連れて行きます」
国見くんは私を抱っこする。体重ばれるからやめてほしい。
「あ、歩けるよ」
「嘘つけ、ふらふらのくせに」
国見くんはぐっと私を抱き寄せた。そんな場合じゃないのはわかってたが心臓がドキドキいった。
保健室に行くと女医さんが「軽い脳震盪ね」といった。
「安静にしてれば大丈夫よ」
そう言ってベッドに寝かされる。国見くんは心配そうにこちらを見る。
「ごめんね、迷惑かけて。大丈夫だから練習戻って」
「本当に大丈夫か?」
「うん」
国見くんは私の前髪を払った。その手つきが優しくて心臓がまた騒ぎたす。ああまただ、本当なんなんだろう。絵を描くのとは違うドキドキ感。不快ではないけど落ち着かない。私は目をつむった。夜な夜な絵を描いていたせいで寝不足だった私はそのまま寝てしまった。
......
起きると夕方だった。ガバリと上体を起こす。そこには国見くんはいなかった。
「起きた?」
「はい。もう大丈夫です」
そう言ってシワになったスカートを伸ばす。そして無事をしらせるために体育館に向かった。
体育館に向かうとまだバレー部が練習していた。最後のスパイク練習みたいだ。国見くんがスパイクを打つ。ざわりと全身に鳥肌がたつ。やはり国見くんのバレーをやっている姿は美しい。なんで私はそれを表現できないんだ。きつく拳を握った。練習の終わりを告げる合図がなる。みな監督のもとに集合して総評をきき解散する。すると私を認めた国見くんがこちらにかけてくる。
「大丈夫か?」
「うん、もう平気」
「みょうじちゃん本当ごめん!」
いつの間にかそばに来ていた及川さんが顔の前で手を合わせる。
「気にしないでください。本当大丈夫なんで」
「お詫びになにか奢るよ。」
「え、」
及川さんは申し訳なさそうに言う。本当に大丈夫なのに。すると岩泉さんがそれを聞いていたのか「部長がなにか奢ってくれるってよ!」と他の部員に呼びかけてた。次々に歓声があがる。
「ちょ!岩ちゃん!?みょうじちゃんだけだからね!?」
「及川さんありがとうございますー!」
「矢巾もなに喜んでんの!?」
結局及川さんが何か皆んなに奢ることになって近くのコンビニまで行く。及川さんは肩を落としていた。元凶としては申し訳ないことこの上ない。チラリと前方を歩いている及川さんを見る。
「気にしなくていいんじゃない?ぶつけたの及川さんだし」
隣にいる国見くんが前を見ながら言う。どこか冷たいように聞こえた。
「いやでも......。」
「気になる?」
国見くんはこっちを見て言う。どこか怒っているような感じがした。真意を測りかねているとコンビニについたようで一斉にコンビニに入る。
中に入るとレジにある蒸し器に気が向いた。そこには肉まんやあんまん、ピザまんなどが陳列されていた。私は目を輝かせてそれらを見る。
「食べたいの?」
「うん、でも私こいうこの食べたことなくて......。どれがいいのやら。」
「まじで?」
国見くんがびっくりしたように聞く。まずコンビニにあまり来ない。
「国見くんのオススメある?」
「肉まんだけど」
「じゃあそれにする。」
レジに並んで肉まんを受け取る。お金は自分で払おうとしたら慌てて及川さんが払いに来た。「お詫びの意味ないでしょ!」と怒られてしまった。
コンビニからでて皆及川さんに買って貰ったものを頬張る。及川さんは財布を振って泣いていた。ごめんなさい。及川さん。
肉まんをちぎって食べる。国見くんのオススメなだけあってとても美味しい。国見くんと金田一くんは適当なパンを選んだようで私が半分食べ終わった頃にもう完食していた。
「腹減ってるときにさ、半端に食べると余計腹減るよな」
「分かる」
そんな会話が聞こえてきたので、私は肉まんを半分に割って2人に差し出した。
「?」
「なに?」
「よければ食べて。あ!ちぎって食べてたから口つけてないよ!」
2人はびっくりしたような顔をする。
「いや、それみょうじのじゃん。みょうじが食べなよ」
金田一くんがうんうんと頷く。
「お腹空いてるみたいだし、なんの足しにもならないかもしれないけど、それに2人には試験中お世話になったから。食べて欲しいな」
そういうこのなら、と2人はそれぞれ肉まんを受け取ってくれた。
食べ終わりそろそろ帰ろうとなったとき、国見くんは当然のように「送る」と言ってくれた。まだ日も高いしいらないし、むしろ国見くんに必要だと思うのにとじいっと国見を見る。
「なに?」
国見くんは首をかしげる。眠たそうな目をしているが、大きな瞳に長い睫毛、サラサラの髪。中世的な顔立ちをしており、やはり可愛い。
「また失礼なこと考えてるでしょ」
国見くんは私の頬っぺたをつねる。
「国見くんが可愛いなんて考えてないよ!」
「思いっきり口滑らせてんぞ」
金田一くんが可笑しそうに笑う。その笑い声を聞いた国見くんはさらにつねる力を強くした。痛いってば!すると国見くんはむにむにと私の頬っぺたを弄ぶ。やめていただきたい。
「お前なに人の頬っぺたで遊んでんの?」
「程よい弾力。癖になる」
国見くんは半笑いで私の頬っぺたを触る。私はペチペチと国見くんの手を軽く叩いた。すると素直に離される。
「どうせ私はデブですよ」
ブスッとして言うと国見くんは「そんなこと言ってないだろ」と言った。
「なになにー?みょうじちゃんの頬っぺた気持ちいいの?触っていい?」
及川さんが面白そうなもの見つけたとでも言わんばかりに目を輝かせて近づいてくる。
「デブって自覚するの辛いんでダメです!」
「みょうじちゃんがデブ?むしろ折れそうなんだけど」
言いつつ腕が伸びてくる。どうする、はたくか。でも先輩の手をはたくとか失礼じゃないか?そんなことを迷ってる間に及川さんの手は近づいてくる。私は覚悟を決めた。するとベチンという音がして及川さんの手がはたかれる。
「......みょうじが嫌がってるのでやめてください」
「え?それ国見ちゃんが言うの?」
国見くんが及川さんを睨むと及川さんは楽しそうにニヤっと笑った。
「はいはいごめんね。そんな睨まないで!」
「別に睨んでなんか......」
及川さんは国見くんの肩を組む。国見くんは嫌そうにその手を払った。及川さんは「そういうことにしといてあげる」と綺麗にウインクして去っていった。
......
「及川さんに悪いことしたなあ」
帰り道、みょうじはずっと及川さんのことを気にしていた。そのことが気にくわない。及川さんのことが好きだからそこまで気に病むんじゃないかと疑ってしまう。
「......及川さんのこと好きなの?」
「え?」
みょうじはポカンとした。脈絡もなくそんなことを聞かれてビックリしたのだろう。みょうじはうーんと唸る。
「どうなんだろう。わかんないよ」
その言葉に心が沈む。やっぱりあの時練習見に来ないでって言えばよかった。合宿に参加してなんてお願いするんじゃなかった。みょうじは唸りながら続ける。
「あんまり喋ったこともないしなぁ」
雲行きが怪しくなってきた。俺は違和感を覚えつつ尋ねる。
「“好き”の意味わかってる?」
「?。好ましく思ってるかどうかでしょ?」
「まだそんなに関わりないしわかんないよ」とみょうじは言う。この子意味分かってないかもしれないと俺は試してみることにした。
「俺のことは?」
「好き!」
みょうじは目をキラキラ輝かせて即答する。ああ、この子の中で“好き”は1種類しかないんだな。ということは及川さんなんて眼中にないってことか。そこだけは良かった。しかしやはり俺の気分は沈んだ。俺も恋愛対象に見られてないんじゃないか?ため息を一つ吐く。
「幸せ逃げるよ?」
「逃げたからため息吐いてんの」
するとみょうじは立ち止まって俺に手のひらを向けて念を送るような動作をする。
「何してんの?」
「私の幸せ送ろうと思って」
ぶっと笑い声が漏れる。アホだこの子。みょうじは何か勘違いしたのか「送れた!?」と嬉しそうだ。
「きたきた、すっげーきた。」
「ありがとな」と頭を撫でるとみょうじは頬を染める。おや?と思っていると家の近くまで来てたらしく「送ってくれてありがとう」と家に逃げ込まれてしまった。
「......ちょっとは可能性あるのかな」
そう呟いて俺も帰路につくべく電車に向かった。
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