▼06.

8日間の手伝いをしたことによってなまえは最近商人のことに興味が湧いたらしく、今日は両親の跡を継ぐための勉強という名の見学兼お手伝いをするから一緒に遊べないと言われた。

公園で僕は一人でいた。公園内では子供たち(といっても僕より歳上っぽいが)がボールで遊んでいた。

「おら!」

「パス!」

すると高く上がったボールが壁の上にのる。子供たちは困ったように上を見上げていた。僕はそのボールを砂でとる。子供たちが僕を見る。

「が、我愛羅だ!砂の我愛羅......」

「に、逃げろー!」

子供たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「待って!」

僕は砂でその子たちを捕まえる。一人は嫌だ。一人は寂しい。気が高ぶった僕は砂の力をつい強くしてしまう。それでも僕はそのことに気付けなかった。さらに砂をかぶせようと追いすがる。

「我愛羅様、落ち着いて下さい!」

夜叉丸が間に入る。僕はハッとした。なまえと出会ってからはこんなことも少なくなったのに。なまえがいないとすぐに情緒不安定になる。僕は家に帰った。

......

ナイフを用意し、手首にあてがう。そして手首に向かって力を込める。

「やっぱりダメだ。砂が邪魔する」

「我愛羅様......」

振り向くとそこには一緒に帰ってきた夜叉丸がいた。腕と頭に痛々しく包帯が巻いてある。夜叉丸は自分の前でそんな自傷行為はやめてくれといった。

「とはいっても、砂が守ってくれますか」

「夜叉丸、ごめん。傷って痛い?」

夜叉丸は自分の包帯を指で添えた。

「ああこれね、まぁ少しは。でもただのかすり傷ですよ。すぐ治ります」

「ねえ夜叉丸」

「何です?」

「痛いって何なの?」

僕は1度もキズができたことがない。だからどんな感じかわからない。そのことを夜叉丸に伝えると夜叉丸は困ったように笑った。

「うーん、どういったらいいのかな......」

夜叉丸はしどろもどろ説明してくれた。いわく、普通でいられない状態だそうだ。ボクは不安になった。

「じゃあ夜叉丸はボクのこと、嫌い?」

夜叉丸は一瞬悲しそうな寂しいそうな顔をした。しかしすぐに笑顔になった。

「人は人をそう簡単には嫌いになれないものですよ」

「ありがと夜叉丸。痛いっていうのが何となく分かった気がする。」

「そうですか」

「じゃあ僕もケガしてるのかな?みんなと同じで」

「!?」

「いつも痛いんだ。血は出ないけど、ここんとこがすごく痛いんだ」

僕は自分の左胸を抑える。夜叉丸は悲しそうにボクを見た。すると夜叉丸はボクからナイフをとって自分の指にあてる。あてた指先から血が流れ出す。

「!!」

「体の傷は確かに血が流れて痛そうに見えるかもしれません」

夜叉丸は体の傷と心の傷について教えてくれた。心の傷は治りにくくて薬が他人からしかもらえないらしい。僕はその薬について尋ねた。

「愛情です」

「あいじょう?」

「はい」

夜叉丸は僕はもうすでに薬をもらっているという。ボクは嬉しくなった。

「ねえ夜叉丸。お願いがあるんだ」

「何です?」

「傷薬がほしいんだ」

僕は傷薬をもらってケガをさせてしまった子の元に急いだ。その子の家に着き、ドアをノックする。

「昼間はごめん、痛かったでしょ。これ傷薬、よかったら......」

「帰れよ、化け物」

「っ!」

僕は拒否されてあてもなく彷徨った。するとおじさんとぶつかった。

「気いつけろこのガ......!、うっ、お前は」

ああ、またこの目だ。蔑むような、怯えたような、化け物を見る目。気がついた時にはやってしまっていた。おじさんは道に倒れる。死んでしまったのだ。......僕が殺したのだ。

さらに道を歩いていると父さまと会った。父さまはボクを無感動な目で見下ろす。僕は目を合わせられなくて下を向いた。

......

家の屋上にきていた。やっぱりうまくいかないや。なんで僕だけこんな化け物なんだ!?僕は何なんだ!?

「........っ、夜叉丸、なまえ......」

「はーい!」

「え!?」

振り返ると今日は会えないだろうと言っていたなまえがいた。僕はビックリして目を丸くする。

「こんな時間にどうしたの?」

「お父さんたちとご飯食べに外にでた帰り!星が降ってきそうなよるだなって思ってたら我愛羅見えたから走って登ってきた!」

そう言うとなまえは身を乗り出して下に向かって叫ぶ。

「お父さーん!お母さーん!我愛羅とちょっとお話するから先に帰っていいよー!」

「ばかやろー!こんな遅い時間に1人でら帰らせるわけないだろ!いきなり走って行ったと思ったら……!ちょっと待ってろ!すぐそっち行くから!」

下で怒っている男の人とそれを見て笑っている女の人がいた。きっとなまえの両親だ。しばらくするとなまえの両親が上がってきた。

「このバカタレが!」

「痛い!ぼうりょくはんたい!」

なまえが頭をさする。頭を拳骨で殴られたのだ。1歩後ろからなまえのお母さんがクスクス笑っている。するとなまえのお父さんがぐりんと僕を見る。いきなりのことにびっくりする。

「君が我愛羅くんか!人柱力ってきいてるけど、全然怖そうに見えないな!」

むしろヒョロいとなまえのお父さんは僕の頭をわしわし撫でた。

「ちょっとあなた!他所様のお子さんに乱暴な扱いしないで!」

「お、おお。悪い。」

パッと頭が解放される。僕は保全としていた。こんな扱いをしてくれる大人の人は初めてだった。

「我愛羅が怖いわけないじゃん!私の友達だよ!」

「そうだったな、悪い。」

「ところで我愛羅、ちょっと顔色悪いよ。大丈夫?」

「……ここんとこがすごく痛いんだ。」

そう言って左胸を抑えると、なまえのお父さんが「この歳で不整脈か……」と呟いた。なまえのお母さんは「そんなわけないでしょ!ばか!!」となまえのお父さんの頭を叩いていた。

「心の傷ね」

「こころのきず?」

なまえが不思議そうに母親に尋ねる。なまえのお母さんは深刻そうに頷いた。

「トラウマとか心の傷はなかなか治るものじゃないのよね……」

「ええ!?我愛羅大丈夫なの!?」

なまえが僕の両肩を掴んでガクガク揺する。

「う、なまえ強い……」

「あっ、ごめん」

両肩からなまえの手が離れる。僕は一息ついて、さっき夜叉丸に教えてもらったことを伝えた。

「愛情をもらえれば治るって夜叉丸が……」

「あいじょうだね!」

「わかった!」となまえは手を僕のほうへかざして何か念を送り始めた。

「……なにやってるの?」

「伝わった!?」

「何が?」

なまえは「伝わらないかー!」とガックリしていた。それを見ていたなまえのお母さんがクスクス笑う。

「なまえ、愛情を伝える1番簡単な方法はね、ほら、いつもお母さんたちがやってあげてることよ」

「そっか!」

そう言うとなまえのお父さんがなまえを抑えにかかろうとするのをなまえのお母さんが抑えていた。僕が不思議に思っているとなまえは僕を正面から抱きしめた。

「!?」

「つたわれー!」

ぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめられる。痛いくらいだ。一体なにが起こっているんだ!?僕の頭はショート寸前だった。

「なまえ!?一体なにを!!?」

「あれ?愛情つたわらない??お母さーん、なにが足りないのかな?力?」

「そうね、ほっぺにちゅーくらいしたら伝わるんじゃないかしら?」

「わかった!」

なまえのお父さんが「許さんぞー!」と叫んでいるけど、お母さんが関節技をキメているので動けずにいる。というかさっきなんて言った?ほっぺにちゅー??そんなことされてはショート寸前の頭が完全にショートする。僕は急いでなまえの口を手で塞いだ。

「むっ、」

「つ、伝わったよ!もう充分!!」

パッとなまえの口から手を離すとなまえは「そっか!」と笑顔だった。

「痛いの無くなった?」

「う、うん」

「よかった!」

ほんとは、本当は、なまえや夜叉丸と一緒にいられるときは痛いのを忘れらるんだよ、なんて言ったらなまえはどんな反応をするかな?喜んでくれるかな?いつか言ってみようか。なまえとその両親は帰って行った。いつかご飯を食べに来てと約束もした。

このあと、少し回復した心に致命傷を負うことになるなんて、この時の僕にはわからなかった。




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