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枯れかけの花に水を
私の両親は商人で、各地を転々として物を売る所謂キャラバンというものをしている。
「今日からこの風の国が拠点だ!」
「いつまでいられるの?」
短いスパンで転々とするのでひょっとしたら1週間後にはもういなくなってるかもしれない。私には夢がある。友達を作るという夢が。
「今回は数年、滞在するつもりだ」
「そんなにいるの!?」
私は目を輝かせた。数年、そんなにいられるならもしかしたら友達もできるかもしれない。やったー!と両手を振り上げる。両親はそんな私をニコニコと見ていた。
「ねえ!公園行ってきていい?」
公園に行ったらもしかしたら私と同年代の子がいるかもしれない。その子と友達になれるかもしれない。そんな期待を膨らませて私は両親に強請ってみる。
「いいが、1つ忠告だ。」
「なに?」
父は人差し指をピシッと立て、少し怖い顔をする。
「この国には“守鶴”という化け物を腹に飼ってるやつがいるらしい。そいつは“人柱力”とよばれ平気で人を殺す」
「ええ!!?」
そんな奴がいるのか、できれば会いたくないものだ。特徴を聞くと、お父さんたちもよくわからないらしい。そんなのどうやって気をつければいいんだ。しかし、私の胸のワクワクは留まるところをしらないらしく、意気揚々と公園に向かった。
公園に着く。まだ早い時間だからなのかそこには人影は見えなかった。
「……。」
しょうがないかと私はブランコに1人乗る。ギイギイと音をたててブランコを動かす。1人でブランコに乗ったってなんの新鮮味もない。私はひとりブスくれていた。そんなことを暫くやっているうちに、1人の子供が砂場にやってきた。その子は少しだけ私を見やるとその場にしゃがみこんで砂の山をつくりだした。その子はチラチラと私を見る。もしかして、私と遊びたいんじゃ!?と私はギイ!っと一際大きくブランコを動かしてブランコから飛び降りた。
「!」
着地に失敗し、尻餅をつく。あまりに痛さに私は声をあげて泣いた。すると砂場にいた子供が私のほうに駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫…?」
「い、いだいぃ」
その子は心配そうに私の隣にしゃがんで背中をさすってくれた。痛いのはお尻なんだがそんなところ触れるはずもなく。その子は私が泣き止むまでそうしてくれていた。
「ありがとう」
痛みがだいぶ和らいだころ、私はぐすぐすと鼻を鳴らしてそう言った。その子は伏し目がちに頷いた。私はとなりで慰めてくれた子を改めて見た。その子のエメラルドグリーンの瞳と赤い髪をもっていて、ただ単純に綺麗だと思った。
「ねえ、お名前なんていうの?」
「えっと……」
その子は口ごもる。目を泳がしてそっと私を覗き込んだ。その目は不安に満ちていた。
「君……、見ない顔だけど、誰?」
「つい今日風の国でお父さんたちが商売させてもらうことになったなまえっていいます!ねえ、君じんちゅーりきって知ってる?お父さんに気をつけろって言われたんだけど、どれのことかわからなくて」
その子はビクリと体をこわばらせた。そしてふるふると首をふる。
「そっかー、知らないか。」
その子はどこか怯えたように頷いた。「名前は?」ともう1度問う。
「あの、人柱力の名前とか知ってる?」
「??。人柱力が名前じゃないの?」
そう言うとその子はホッとしたように息を吐いた。
「僕は我愛羅。」
「我愛羅くん!よろしく!!」
「う、うん。」
我愛羅くんは差し出した私の手をおずおずと握り返した。
「あのね、私ね、ここに来たばっかりなの」
「う、うん。さっきも言ってたね」
「だからね、友達がいなくて、我愛羅くんに友達になってほしいなって!」
「!!」
我愛羅くんはびっくりしたように目を見開いた。私はその反応にびっくりする。実はいうと今まで友達など、できた試しがなかったのだが、それがバレたのかと焦る。しかしそうじゃないようで、我愛羅くんは少し頬を上気させた。
「僕でいいの……?」
「?。だって我愛羅くん優しいじゃない」
私がドジって泣いていたとき、ずっと側で背中をさすってくれた。そんな子が悪い子なわけがない。
「だから友達になってほしいなって、ダメ?」
「ううん、友達になろう!」
我愛羅くんはとても嬉しそうに笑った。その笑顔に釣られて私も笑う。
我愛羅くんはほかの子供が公園に来る前に帰って行った。私は我愛羅くんが罪悪感を抱えているなんて知る由もなかった。
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