あなたの世界を構成していく


ピンポーン。

インターホンの間抜けな音が家に響く。
ネズミはちょうどシャワーから上がったところだった。

また、このタイミングかよ。

げんなりして居留守を決め込もうかと思ったが、とりあえず訪問者の姿だけ確認することにする。
宅配だったら、不在票だけ置いて帰ってもらおう。

すっかりお気に入りの赤チェック柄のシャツを羽織り、ドアの覗き窓から外を伺う。

「…紫苑」


たの世界を構成し


もう一度インターホンを鳴らそうかと紫苑が腕を上げたところで、ドアが開いた。
中からネズミが顔をのぞかせる。

「あ、家にいたんだ、良かった…って、ネズ…ミ…っ?」

紫苑の声がひっくり返る。
ネズミは何もしていない。わけが分からずきょとんとする。

「ちょ、ネズミ、きみ、無用心すぎるよ…!」
「は?」
「いいから!早く家入って」

紫苑は問答無用にネズミを玄関に押し戻し、自分も家の中に入ってきてドアを閉める。
そこではっと気付いたのか、紫苑は律儀に、お邪魔します、なんて言いなおす。

「…おれ、入っていいなんて言ってないけど」
「あ、うん、ごめん…でも、きみ今の自分の姿分かってる?だめだよそんなのでドア開けちゃ」
「…いくらおれでも宅配だったら無視する。紫苑だったから開けたんだ。まあいいや、上がって」

もう一度ごめんと呟いて、紫苑は靴をぬいでそっと家に上がる。

「これスリッパ」
「あ、ありがとう。あのさ、ネズミ」
「なに?」
「…部屋ではいつもその格好?」
「いや、さっき朝シャンしてたから」
「朝シャンって…、もう昼前だけど」
「休日なんだし、何時まで寝ようと勝手じゃん」

ふい、とネズミは部屋に入る。
心なしかご機嫌斜めに見えた。
紫苑は、おそるおそるネズミの後に続いて部屋に入る。
奥のキッチンで、ネズミが何かガチャガチャやっている。

「…ネズミ?何やってるの?」
「うるさい。おれ、朝めしまだなんだよ。ていうか紫苑、何の用?」
「とくに用があったわけじゃないけど…用がないと来ちゃだめか?」
「え?」
「ネズミの顔が、見たくなったんだ」

にこにこ、という擬態語がぴったりの表情で紫苑は笑う。
しかもちゃっかり、手近にあった椅子に勝手に座っている。

思わずその笑顔に見とれてしまい、うっとネズミは返答に詰まる。
顔が赤らむのが分かり、急いで俯く。
ふふっと紫苑は笑ってネズミの側に来る。

「あ、ネズミ、髪濡れてる」
「…シャワー浴びてたって言っただろ」
「だめだよ、風邪引く。タオルはどこにあるの?」
「…そこの棚の上から二番目のとこ」
「おっけー」

数週間前から、少しずつ家の整理をしていた。
祖父との二人暮らし、男所帯だからどうしてもすぐ散らかってしまう。

「あ、あった、あった」

紫苑はタオルを見つけ出すと、ネズミの頭にふわっと被せ、ごしごし拭いてやる。

「…紫苑」
「うん?」
「おれ、いま料理中なんだけど」
「うん、邪魔しないように気をつけてるよ?」
「鬱陶しい。もうすぐ終わるから、離れてろ」

渋々ながら紫苑はネズミにかまうのをやめ、ダイニングに戻っていった。


ほら、できたぞ

えっ、二人前?ネズミの朝食じゃなかったの?

そうだけど、あんたお昼まだだろ

え、うん、でも、押しかけといてごちそうになってしまうのは…

あ、押しかけてる自覚あったんだ?ふふ、もう作っちゃったんだし、食ってけよ

じゃ、じゃあ遠慮なく…いただきます



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