08
そうして、紫苑の研究の日々が始まる。
まずは、コーヒー。 どんな淹れ方をすれば豆のコクを最大限に引き出せるか、どんなブレンドがおいしいか。
「そんな事して味なんて変わるのか?」 「そもそも味に違いなんてあんのかよ」
ネズミとイヌカシに茶々を入れられながら、試行錯誤を繰り返す。
今回は豆を蒸らすのを工夫してみよう、と紫苑は考える。 そしてまず、新しい水をコーヒーポットに入れて、沸かす。 沸かし直しのお湯では美味しいコーヒーは入らない。必ずその都度沸かす。 ある程度沸騰したら、火を止める。沸騰させすぎると水の中の二酸化炭素が全て空気中に離散してしまうからだ。 沸騰がおさまり、95℃くらいになったお湯を少しだけ注ぐ。すぐにアルミ箔で蓋をし、30秒ほど蒸らす。 そして、少しずつ慎重に渦巻きを描きながら熱湯を注いでいく。
「はい、出来たよ。これはどうかな?」 「もうコーヒーで腹一杯なんだが」 呆れるネズミに紫苑はにこにこして言う。 「今回は今までとはちょっと違う淹れ方してみたんだ。いいから飲んでみてよ」
イヌカシが鼻をひくひくと動かした。 「お、紫苑、なんか香りが強い」 「でしょ。味は?」 「変わったのは分かるが、どの味が美味しいとかは…」 そう言って肩をすくめる。 「そっか。じゃあ、ネズミは?」 「これが一番いい」 「ほんと?」 「ああ。コクがある」 「ありがとう、ネズミ、イヌカシ!コーヒーはこの淹れ方に決定するね。次はココア作ってくるからちょっと待ってて」 「まだ飲むの、おれら!?」 「このおれの胃が弱ったらどうしてくれるんだ、ネズミさまは繊細なんだぜ」 「けっ、よく言うぜ」 「犬っころは黙っとけ」 「ちょっと、二人とも!」
こうして紫苑レシピは着々と作成されていった。
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