06


「イヌカシはウェイターでいいとして。紫苑、会計や帳簿を頼めるか…学のある奴が不足していてな。店に出すのは一応このメニューだ。食材の取り寄せ先と費用は別紙に書いてある」

力河が手渡した書類のメニューを見て、ネズミは鼻をならした。

「なにこれ。貧相なメニュー。ブレンド、アメリカン、モカ、オムレツ、サンドイッチ、ホットケーキ、スープ、菓子パン数種類。もっと気の効いたメニューないわけ?マカロンとかパフェとか。西ブロックならともかく、ここじゃ繁盛しないぜ。なんせもっと安くてお手頃なファーストフード店がわんさかあるからな」
「無茶言うな、イヴ。それに、メニューはわざと少なく絞ったんだ。その方が味の質にこだわれるだろうが。量より質だ」
「逃げ足の早いだけあるな。自己弁護に使う言葉は豊富に持ってるってわけか」
「おまえはそのよくまわる毒舌、どっかでちょん切られてこい」

ふふっ、とネズミは笑う。
「なぁ聞いたか紫苑。我らが経営者は従業員に死んでこいとご命令だ」
「ああもうネズミ。いろんなとこで喧嘩売らなくていいから。きみはウェイター用の営業スマイルの練習でもしといてよ」
「舞台用のイヴスマイルでいいんじゃないのか」
「ここをきみの劇場にしたら許さない」

書類を読んでいた紫苑はふいに顔をあげた。ネズミの目をまっすぐ見据え、真面目な顔で言う。

「いいか。このカフェはお客さんの憩いの場ではあるけど、きみの舞台のようにお客を虜にする所じゃない。だからもう少し魔力の少ない笑顔を練習しないとだめだ。もっと爽やかで、見た時は綺麗だと思うけど2日後くらいには記憶に残ってない感じの笑顔を」

「へぇ、今までで一番難しい課題だな、それ」
「じゃっ、鏡の前で頑張ってて」
「いやだ」
「は?なんで」
「あんたが面白い事言うからだよ」
「え?」
「何でもない」

ネズミは楽しげに口笛を吹きながら部屋を出て行った。


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