03


紫苑は、力河から貸してもらった散髪ハサミや櫛、ドライヤーなどを持って風呂場に行く。ドアの前で立ち止まり、呼び掛ける。

「イヌカシー?もうお風呂出た?ちゃんと支給されたウェイターの服着た?」
「おう。紫苑か?」

長い髪をタオルでごしごしふいて乾かしていたイヌカシがドアを開けた。紫苑は一礼してみせる。
「様子を見に参りました。イヌカシ様専属のスタイリストでございます」
にやっと笑う。その笑みにイヌカシは若干たじろぐ。
「なっ、何すんだ紫苑、ス、スタイリスト?」
「そう。一人前のウェイターに仕上げてあげる」
「は?え、なんで楽しそうなんだ?何すんだ?」
「ぼくそんなに楽しそう?なんかネズミも似たようなこと言ってたけど…。うん、まずは散髪だね。あ、そんなに短くしないから安心して」
再びにっこりと笑いかけられ、イヌカシはやっとひきつった笑顔をつくる。
「へぇ、期待してるぜ紫苑先生」
「任せてよ。じゃっ、もっかい洗髪するよ」
「え、いや、さっき洗ったぞ」
「うーん…いや、ぼくがもう一度洗う。パサパサじゃないか。これはトリートメントつけた方がいいな…」
ぶつぶつと紫苑は呟きながら、イヌカシを洗面台へと連れていく。
「はい、いくよー。目はつむっててね。しみないように一応タオルはかけとくけど」


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