美味しいたこ焼きいかが?


!)女の子の恰好をして屋台の売り子してるネズミさんとハラハラしてる紫苑さん



「ネ…ネズミ!?」

紫苑はネズミを見るなり悲鳴のような声をあげた。

「んな、ななな、なんなの、その格好…!!」

ネズミは長めの黒髪を高く結わえて簪をさし、女物の浴衣を粋に着崩していた。
その姿に面喰って目を白黒させながら口を開け閉めする紫苑を、ネズミは灰色の瞳で心底愉快そうに見返した。

「なにって…ただの市販の浴衣だな」
「でもそれはっ、きみってひとは、ネズミ、」

美しすぎるネズミの艶姿に、文句の賛辞も、言いたいことは山ほどあった紫苑だったが、彼はそれきり絶句した。思考が目の前の現象に追い付かず、その後の言葉が続かなかったようだ。
ネズミはそんな紫苑の様子を眺め、いつにも増して艶っぽい唇をゆがめて笑った。

「ふふっ、驚いた?」

そう言って唇をきれいな笑みの形に変え、ことりと小首をかしげる。
そのはずみで、しゃらん、と簪の音が鳴る。浴衣の落とした襟から白い首筋が覗く。
よく見ると、形良く微笑んだ唇には薄くリップがひかれ、灰色の瞳が煌めく目元にはほんのりと朱がさされている。

たったそれだけなのに、ネズミは完璧な女の子に変身していた。そんなネズミに笑いかけられ、紫苑は不覚にも赤面してしまうのだった。


美味しいたこ焼きいかが?


…さてはて、事の発端は、イヌカシからの一通のメールだった。

──すまん。夏祭りの屋台の人手が足りなくなった。バイトしないか?

同様のメールはネズミの方にも来たようで、紫苑が夏祭りを密かに楽しみにしていたのは事実だったが…まさか…

「ね、紫苑、たすき掛けってどうやるんだっけ?袖が邪魔でさ」

まさか、ネズミがこんな格好で屋台の売り子をするなどとは、思い付きもしなかった。
大切な大切なネズミに、悪い虫がついたらどうしてくれよう。
紫苑は早くも害虫駆除の方法を考えはじめる。

「紫苑、どうしたらいいんだ、これ。襷、絡まっちまったんだが…紫苑?ちょ、聞いてる?しおーん」

思索の海に沈む紫苑の集中力は並大抵のものではない。
目の前をひらひらと美しいネズミの手が踊ってはじめて、紫苑は顔を上げた。

「は?たすき掛け?えっ、ええと…、こんな感じじゃ…」
「え、それなんかおかしくない?」
「うーん、だよね…どうやるんだっけ?」

慣れない着物の扱いに二人が四苦八苦しているところに、イヌカシがひょこりと現れた。

「あ、きたきた紫苑。ほれ、おまえさんはこれを着な」

ぽいっ、と紫苑に無造作に放り投げられたのは甚平。男物だった。
紺色で何の変哲もない甚平を手にして、紫苑は妙な顔をする。

「ん…?ぼくは普通の格好なんだ?」
「あれ、おまえさんも女装したいのか?だったら予備が…」

しれっとイヌカシはそらっとぼけてみせる。

「違う違う!」
「…んだよ、ネズミのことか?似合ってんだろ?ご本人もご満悦じゃねえか」
「はあ?ネズミにかぎってそんなことが…」

ところが、そこにネズミの高い声が聞こえてきた。
いつの間にかイヌカシのかまえた屋台の傍で、呼び子をやっている。屋台の中では、これまた助っ人に駆り出された力河が、額にねじり鉢巻きを締め、せっせとたこ焼きをひっくり返していた。

「いらっしゃい、いらっしゃい、たこ焼きですよ、そこのお兄さんたち、いかがですかー?おいしいですよー!」

たしかに、その声は明らかにはしゃいでいた。
たすき掛けはあきらめたらしく、そのままの浴衣の袖がひらひらと風に舞っている。

「お、たこ焼き?買っていこうかな」

紫苑が茫然と見ている間にも早速たこ焼きは売れていった。買ったのは男性客、明らかに鼻の下を伸ばしてネズミに見とれている。

「はい、まいど!熱いから気をつけてどうぞー」

その男性客に、ネズミは華やかな営業スマイルを浮かべながらたこ焼きを手渡す。
去っていく男性客に、たこ焼きの鉄板よりも熱い殺意のこもった視線を投げた紫苑は、地を這う声音で言った。

「……害虫駆除が大変そうだねぇ…」

そう言った彼が黒い笑みを浮かべていたことは、隣にいたイヌカシしか知らない。




長らくご無沙汰してごめんなさい!これ書きはじめたの、6月28日ww季節外れすみません(・ω・`)
気がつけばハロウィンもポッキーも終わってる…/(^o^)\ひたすらごめんなさい
徐々に復帰していきたいな。だって6好きだもの!
しっかしこのト書きのような(決してト書きを馬鹿にしているのではない)ヘタレな文はなんだ…ゴミだ…
…そうそう、ゴミといえば…先日ごみばこに書きかけ文をうpしました、はい。
…しばらくリハビリですね



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