だって歩道が狭いから !)ネズ紫、大学生 ・「夢か現か分からない」部屋の『暁の空に星は瞬く』の二人 ・雨の朝、大学に登校してる途中でのお話 緩急のある風に翻弄される雨粒が、ぱらぱらと疎らに傘に落ちてくる。 どうやら、春の台風が北上してきているらしい。荒れてきた風に吹かれ、楠木の小さな花がぽろぽろとたくさん落ち、道路に黄緑色のカーペットのように散っていた。 紫苑は斜めに降る雨を避けるために傘を傾け、ガードレールで仕切られた狭い歩道をゆっくり歩く。スポンジのように水を吸った楠木の花を、ふわり、ふわり、と踏みしめると、樟脳の香りとアスファルトの濡れた匂いが混ざり合い、つんと鼻を刺激した。 春の、雨の匂いだ。 紫苑は大きく息を吸い、肺に雨の空気を取り込む。 ふいに、樟脳の芳香が強くなる。立ち止まって頭上を見上げると、神社の神木のように大きな楠木の大枝が天を覆っていた。 気がつかなかった。こんなに大きな楠木が、ここに生えていたなんて。 暫しの間、雨が傘をかいくぐって衣服を湿らすのも構わず、ぼうっと楠木の大木を見上げる。 「…おい」 とんっと軽く傘を揺らされた。傘の骨を伝う水滴が飛びはね、頬にかかる。 「わっ、」 自失を破られ、紫苑は頬の水滴を手の甲でぬぐいながら振り返った。 「後ろ、つかえてんぞ」 「あ、ネズミ。おはよう」 「…まったく、あんたってやつは」 貸しな、と言われ、何を?と問い返す間もなく傘をふわりと奪われる。代わりにネズミの傘をさしかけられ、さっと腕を取られる。 わけが分からず、紫苑はきょとんとネズミを見上げた。 「どうしたの?ネズミ」 「あんた、ちゃんと時間見てる?遅刻するぞ」 「え、あ、うん。だけどネズミ、ぼく、ちゃんと自分の傘持ってるのに。これじゃあ、ネズミの肩が濡れる…」 「…ばか」 この歩道は、二人それぞれが傘を差しながら並んで歩くには狭すぎる。 それに思い至らない紫苑は狐につままれたような顔をしてネズミを見上げた。そのあどけない表情の紫苑を見下ろし、ネズミは吐きたい溜め息をそのまま飲み込み、紫苑の傘の水滴を軽くふるって畳む。 「ネズミ?」 「いいよ、もう。ほら、ちゃっちゃと歩く」 ぐいとネズミに腰を引き寄せられ、紫苑は慌てる。 「ちょ、ちょっとネズミ、」 「なに?こうすれば濡れないぜ」 「そ…そうだけど…」 紫苑が赤面して俯くと、いつもより近い距離でネズミはふふふと笑う。 「なぁに、照れてんの?紫苑」 耳元でささやく声に、ますます紫苑の顔は熱くなる。 上気した紫苑の頬をつつき、ネズミはまた楽しげに笑う。 そして頭上では、ネズミの笑い声に同調するかのように、楠木の葉もさわさわと軽やかな音をたてていた。 だって歩道が狭いから 関東には以外と楠木少ないですよね? あ、楠木って、所謂もちもちの木です。 私の地元には街路樹としてたくさん生えてて、春になると黄緑色のカスみたいな花がそりゃもう降り注いできて、ちょっと道を歩いただけで髪に黄緑のカスがいっぱいくっついたものです(・ω・`) でも関東では大学に生えてるのくらいしか見ないな…と思って調べると、わりと南の方に多く生育してるみたいです。 あ、あと楠木と表記しましたが楠と書く方が一般的なようです(?)。 …ネズ紫の相合い傘より木の方に力を入れてしまった/(^o^)\ごめんなさい back |