カメラマンな紫苑さん 「プロフィール写真を撮りにきました」 スタジオのスタッフに、ネズミは淡々と要点を述べる。 リクルートの書類に貼る顔写真を撮りに来たこと、出来上がりは3×4、だがこれからも使えるようにデータはCDーRに入れて持ち帰りたいこと…などなど。 スタッフはさらさらとメモをとると、カメラマンに伝えに行った。 「では、軽いメイク入りまーす」 新たなスタッフが顔を見せる。 はきはきした物言いの、ショートボブの女の人が化粧道具を手にとる。 「そうね…メイクなんてほとんどいらないくらいね。とっても綺麗なお顔。ご両親に感謝ね」 「はぁ…」 ぽんぽん、と軽く粉をはたかれる。 最後に顎のラインに濃いめの粉でシャドーイングをして、メイク終了。 「じゃ、撮影入りまーす。よろしくお願いしますー」 今度は、にこやかな白髪のカメラマンがスタジオに入ってくる。 「ん?きみ、きれいだねー。俳優オーディションでも受けるの?」 「は?」 「あ、ちょっと待ってね…いまライトの調節を…うん、これでいいかな。じゃっ、まず試し撮りね、いくよーリラックスして」 訳の分からぬまま、シャッターを切られる。 「テスト、チェックですー、はい、オッケー。この明かりでいくよー」 「はぁ…」 「はい、じゃ、本番いくよ。きみ、名前は?」 「ネズミ…だけど」 「そう、ネズミくん、プロフィール写真のプランでいいんだよねー」 「就活の写真を…」 「えっ、リクルートにしか使わないの?じゃあ正面写真だけ?」 「は?そうですが」 「いや、きみがあんまり綺麗だからさ、いろんなアングル撮りたいなーって思っただけ」 白髪のカメラマンはにこにこしながら、女性なら頬を染めるだろう台詞を恥ずかしげもなく連発する。 「じゃあ撮ろうか。まずは真面目な顔でー」 パシャッ。 「いいよいいよーきれい。じゃ、続けて撮っていくよ、だんだん微笑んでいってねー」 パシャッ、パシャッ、パシャッ、パシャッ。 「もっと笑えるよー笑ってー」 パシャッ、パシャッ。 「そうそう、かわいい!笑ってー」 …ん?かわいい、なんて初めて言われた気が… パシャッ。 「じゃ、次ラスト!そのまま、笑ったままで、口元だけきゅっと引き締めて、凛々しく、あっ、そうそう!」 パシャッ。 「はーい、ここでひとまずチェッーク。楽にしててー」 ふっと肩の力を抜く。 カメラマンは撮ったものをスライドさせながら、頷いている。 「ふんふん、どれもきれい。あ、このショットとか雑誌にも使えそう。きみ上手いねー」 …こいつ、絶対プレイボーイだ。 心の中でネズミは呟いた。 口には出さなかったが、顔に出ていたらしい。 白髪のカメラマンは、あははと笑った。 「やだなあー、お世辞とかじゃないからね?ほんとにネズミくん、かわいいんだもん」 「…その、かわいいって、やめてくれますか」 「え?なんで?あ、あのね。これから昼休みなんだけど、一緒に食事でもどう?」 「…はっ?」 fin. 2011.10.07 えっ、ここで切るの!?ってとこで強制終了〜 紫苑さんがプレイボーイで、ネズミさんが堅気な社会人って設定の現代パロでした(笑) back |