対話


「自分らしさってなんだろうね」
「そりゃ、自分らしくいるってことじゃないの」
「じゃあ、私の自分らしさってなんだろう」
「知らない。あんたに聞けば?」
「聞いても分かんないから言ってんの」
「アンタが分かんないなら、私も分かんないよ」
「それもそうだね」
「自分に分かんないなら、他人にも分かんないよ」

「自分を客観的に見ることって大事だよね」
「そうだね。できたらいいね」
「でもさ、その客観的に見てる自分も結局は自分なんだろうね」
「悪いところに気づけないってこと?」
「悪いところも。良いところも」
「他人だからこそ分かることって、案外あるもんだね」
「でもまぁ、深い部分には孤独があるのみ、さ」

「〈自分〉ってさ、結局他人の集合体だよね」
「まぁそうは思うよ。今まで見てきたもの聞いてきたもの、全部が蓄積されて、今の自分になってるんだろうね」
「そんなもんか」
「そんなもんでしょ」
「そんなもんだね」

「自分が持っている、水の入ったバケツをさ、必死に守っているけど、実はそれに水は少ししか入っていなくてさ。でも自分は、守ろうとするたびにどんどん水が減っているって思ってるんだ。本当は、少ししか入っていない、バケツの中の水が腐りつつあるのにね」
「そうやって、気付くだけマシじゃないの」
「そうやって、そう言って、いつだって自分を守ろうとしてきたじゃない。全部、幻想だよ」
「……アンタ、いつからそんなに泣き虫になったのさ」
「泣いてないよ。私はいつだって笑ってる」
「嘘。アンタ、いつだって泣いてるじゃない。私が分からないわけないでしょう」
「私、そんなに隠すの下手かなぁ」
「隠すのが下手なんじゃない。私には隠せないってことさ。それくらい、アンタも分かってるでしょ?」
「そう言えば、そうだったね」
「……アンタがもう一つ隠してること、当ててあげようか?」
「ふふふ、どうぞ?」
「死にたいんでしょ。ずっと考えてる」
「うん。でも怖くて。結局臆病なんだ」
「私が殺してあげようか。デザートイーグル、持ってるんだ」
「センスいいね。でも、穴が開くのは好きじゃないな」
「そうやって、また言い訳?」
「そうなのかもしれない。でも、ごめん、まだ私」
「……分かってるよ。だって私は、アンタなんだもの」



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