誰にも届かない
...7


シャイレは、少し手を震わせて首のバンダナ? を外した。
いきなり、リシュの前に出てきた。
外したバンダナを、リシュの怪我した足に手早く巻きつけた。

キュッと締めて、今度は素早くリシュに背を向けてしまった。
そんなシャイレにリシュは、ポツリ、と話し始めた。

「私……十二年くらい前に、両親が死んでしまって…………
その場面を……見てしまったんです。

私は何とか助かったけれど……その時のショックなのか……声が出なくなったのです。
施設でも……誰にも何も話せなくて……孤立しかけていました。

そんな時、私と仲良くしてくれた友達がいたのです。
その友達は、明るくて優しくて。いつも私と一緒にいてくれました。

時々、二人で散歩に出かけました。
友達は、誰も知らないような裏道を知っていました。
そこをいつも探検していました…………。


ある人に出会ったのは、私が施設に入ってから二年後。今から十年前のことでした。

いつものように探検していたら……ある、小さな家を見つけたのです。
ひっそりと、誰にも見つからないような場所に、その家はありました。

その家の窓の下に、一人の少年がもたれかかっていたのです。
凄く透き通った銀髪に、深い青の目。
とても綺麗で、端整な顔立ちをしていました。
年は、私達と同じくらいに見えました。

彼は、何をするでもなく、空を見上げていました。
その目は、空の青さに染まっているようでした。

私は、その人に、一瞬にして惹かれてしまいました。
恋に落ちてしまったと言うのには、軽すぎて、簡単すぎました。
愛してしまったと言うのには、今の私にも幼すぎました。

どう言葉で表していいかわかりません。
とにかく、その人は、私にとって大きな存在となったのです。

友達が、

『凄く綺麗な人だね!』

ととても感激したように言いました。
私は友達に頷きました。

『綺麗……』

私の呟いた言葉は、しっかりと声になっていました。
驚いて友達のほうを振り向いたら、友達も驚いていました。

『やったね! 声、出たじゃない!!』

私は、友達と喜び合いました。
たくさんたくさん、喜び合いました。

友達も私も、

『あの人が、声を取り戻させてくれた……』

と思っていました。私は今でもそう思っています。
自分が、ここまで惹かれた人が声を取り戻させてくれた。

私は、その出会いが運命だと信じてやみませんでした。

それからも私達はこっそりと、その人に会いに行きました。
といっても、大体見ているだけでしたが……

その人は、いつも同じ場所で、空を眺めていました。
それ以外の姿は……お母さんらしき方と、話しているのを見かけました。

今思えば、見ているだけではなく、話しかければよかったのです。
結局その人とは一度しか話せなかったのですから…………



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