誰にも届かない
...6


「今日は、泊まっていって下さいね。」

との言葉に甘え、シャイレとリシュの二人は泊まっていくことにした。

コルーは、既にマリーと寝ていた。
突然独りぼっちになってしまって、凄く寂しかったのだろう。不安だったのだろう。
マリーに添い寝してもらって、とても幸せそうだった。

リシュは、借りた毛布と布団ですやすやと。

シャイレは、また座った状態で壁に背を預けていた。
閉じられた目の睫毛が長い。
どことなく傷ついた天使の様にも見える。

マリーはシャイレを見て立ち上がる。
既にコルーは眠りについていた。

シャイレのために出した毛布を、そっとかける。
そして静かにコルーの元へと戻った。
マリーも布団に入ってコルーと共に寝てしまった時。
シャイレが突然顔を上げた。

いつもの仏頂面(?)だが……リシュが見たら目には微かな驚きが見れたであろう。


そして朝、シャイレとリシュは、マリーとコルーに別れを告げて歩き出した。
昨日までは、リシュが着いていっていたのに、今度は、シャイレが着いて行っているように見えた。

「……送ってくれるの?」
「…………」
「ありがとう……」
「…………」

相変わらずシャイレは俯き気味、無表情で歩く。
リシュと出会ってから、一言も言葉を発していない。
"寡黙"を超えた、最上級の無言を保っている。
そんなシャイレにリシュは楽しそうに着いていく。

シャイレに出会う前より、混じり気の少ない笑顔だった。

「ねぇ……シャイレ……誰か、見てない……?」
「…………」

瞬間、二人は兵士達に囲まれていた。

アースウェスの兵士達。
本来味方のはずの、兵士達。

銃を、皆構えている。

シャイレは、舌打ちをして、しゃがむ。
リシュも、シャイレに肩を下に押されてしゃがみ込む。

兵士達の隙をついて、間を割って輪から逃げるシャイレ。
そして兵士数人に足払いをかける。

慌てて立ち上がり、銃を構えなおそうとする兵士達。
構えられる状態になった時、シャイレは視界から消えていた。

輪の体制を勢いよく崩す。リシュが、なぎ倒された。

銃を構えながら、周りを見回す兵士達。
シャイレは、何処にも見当たらない。

突然、銃口が切り裂かれる。
上から、ナイフが飛んできたのだ。

上を見上げる兵士達。
シャイレが、建物−と言っても廃墟のようだが−の屋上から、見下ろしている。

「…………」

冷たい目で、兵士達を見下ろすシャイレ。
氷点下まで一気に凍りつきそうな視線を刺している。

武器を失った兵士達は、去っていった。

屋上から、ストンと降り立つシャイレ。
降りた衝撃を全く感じさせない。

リシュは、しゃがみ込んでいた。倒れこんでいたと言っても過言ではないだろう。
かばっている左膝から、血が出ていた。

シャイレが、素早く駆け寄る。
リシュは、構わず……

「凄いね……あっという間にビル登っちゃったよ……」

といつもの控えめな笑顔で笑っていた。
シャイレは――相変わらず、しかめた顔で……
そっと、頭を下げた。
自分の所為で怪我をさせてしまったと罪悪感を覚えているのだろう。

「私は、大丈夫だから……」

と言ってリシュは立ち上がるが……やはりよろけている。
シャイレは、そんなリシュを軽々抱えあげて(リシュは、細身である)
路地裏へ、スッと駆け込んだ。

路地裏に入ったところに、リシュをそっと降ろす。
リシュの隣に、自分も座った。



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