誰にも届かない
...17


「この戦争は、私達に何をもたらしてくれるのですか?」

増え続け、増え続け、会議室の密度が、増していく。
現れた者達が、織り成す雰囲気も増し、重くなっていく。

「列強の名などより、私達は、私達の幸せを返してほしいです」

老若男女問わず、増えていく。
揺らぐ彼らは、蜃気楼のよう。
重役達は、何も話せない。
現れた者達の雰囲気に、のしかかられている。

「窓の外を見てください」

窓の外に、遠くに見えるホープウェイ。
壊された建物。無残に打ち砕かれた生活の跡。
古びた三輪車、銃痕の残る壁。

東に見える、イースタン。
兵士に銃を向けられ、怯える少女。
見つからないように、身を潜める少年。

眼下に見える、アースウェス。
傷だらけで、倒れた母親。
ただ取り残されなす術のない、子供。


「この光景に。風景に。現在に。幸せを見出すことができますか?」


また、密度が増した。


「終戦宣言を、出してください」



シャイレは、必死に外を駆け回っていた。
耳あてつきの帽子のようなものを被っている。
リシュに貸したバンダナは畳まれて、枕元に置いてあった。
それで、口元を隠していた。
兵士に気づかれても、すぐに振り払って逃げていた。

どの道を走っても、リシュは見つからない。
どの路地裏を走っても、リシュは見つからない。
どれだけ捜しても、リシュは見つからない。

必死でリシュの名を呼ぶ。
必死にリシュの名を叫ぶ。

それでも、シャイレの声は、発せられていない。
発せられるのは、微かな息だけ。

路地裏をよく知らないシャイレは、道に迷っていた。
手当たり次第に、走っていたのだ。
目の前に、三方向に分岐する道が現れた。
シャイレは足を止めた。
三方向を眺めて、キョロキョロする。

「空を眺めるといいよ」

そんな時に突然思い出す、ルラの言葉。
どうしていいかわからなくなっていたシャイレは、何か変わるとは思えなかったが上を見た。
バンダナの隙間から、開いた傷跡がチラリと見える。

まっさらな青い空に、雲が流れていく。

シャイレは、意を決して右に曲がる。
また、真っ直ぐ走っていく。

走っていくうちに、少し広い場所に出た。
周りは大きな建物に囲まれていた。
右を向いたら、小さな家がそこにはあった。
誰にも見つからないような場所に、ひっそりとあった。

不思議と湧き出る、既視感。

そんなものに、構っている場合ではなかった。
家の前に、リシュが倒れていた。
すぐにシャイレは駆け寄った。

リシュは、弱弱しく目を開けていて、凄く疲れきった様子だった。
帽子と、口元のバンダナを外した。

『……どうしたんだ……』

シャイレは、必死に心の中でリシュに語りかける。

「もう、戦争なんて終わったよ……」
「…………?」
「みんなに、助けてもらったの。私の力で、死んでしまった人を呼び寄せて。

戦争を始めた人達に、みんなの意見を、少しだけ伝えてもらって……

……戦争をやめるように、言ってもらったの。

私は……みんなの呼び寄せるだけで、精一杯で……何もできなかったけど。」

「…………」
「もう……疲れちゃった……シャイレの声も、よく……聞こえないんだ……」
『……あの力が、よく働かないのか……?』
「いや……使い果たしてきちゃったみたい。」

驚くシャイレ。
リシュは、シャイレのほうを向き、何か言いたそうにして、そのまま目を閉じてしまった。



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