青を掴んだ休息
巧さんの小説「IAFLYS」のキャラをお借りしました。
そして二次創作しました。
Twitterで燃え上がって暴走した結果。倭姫に捧ぐ。

















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食事をとるには少し遅い時刻。
さすがに人は少なく、食事を終えてゆったりとコーヒー…ではなく、ココアを飲んでいたりする男の目に、一人の少女が映る。
栗色のゆるく波打つ髪をした少女。フェルディオと話していたのを、何度か見かけたことがあった。なんとなく視界に入った少女からつい目が離せなくなってしまったのは、彼女の顔色の悪さだった。
今まで見た中で一番ひどい顔色だった。もともと白い肌はより一層白く、血の気がなくなっている。机にある食事にはほとんど手がつけられていないようだった。
声をかけようかと思い、とどまる。そういえば自分はほとんど会話したことがない。
自分の人相の悪さには自覚がある。彼女も初対面のときに、びくりと肩を揺らしたことを今でもはっきりと覚えていた。

どうする。

眉間にしわを寄せ、空になったコップを机に置く。
その時、彼女は食事をとることを諦めたのか、静かに立ち上がった。
否、立ち上がろうと、した。しかし机についた腕ががくりと力を失った。
持ち上げようとした食器ががちゃりと激しく音を立てる。
気づいたときには、アルベルトは彼女に向かって足を進めていた。

今にも倒れそうな顔色の少女は、アルベルトが近づいていることにも気づかないようだった。
大した距離もなかったため、男の歩幅で歩けばすぐに近づく。
座っているのがやっとの状態であるらしい彼女の横から、アルベルトは彼女の食器に手を伸ばした。

「あ…」

のろのろと顔を上げる少女の瞳が、青を捉える。
気づいたときには、銀の髪を揺らし、食器を返却しに行く後姿が見えた。
立ち上がるのも苦しいほど、血が足りない。もともと低血圧の彼女にとって、これが一番辛い。
立ち上がろうと腕に、足に力を込めるも、まったく意味を為さない。
視界がぐらぐらと揺れて気持ちが悪い。

「大丈夫か」

ぐい、と腕をとられ、初めて彼が隣にいることに気付いた。
食器を返却し、両手を使えるようになったアルベルトは、どうすべきか逡巡しつつ、彼女を支えることに決めた。
力加減を気にしつつ、少女の様子を伺う。顔色は依然悪いまま。

「あ…えと、…だい、じょうぶ…です」
「立てもしないのにか。医務室まで運ぶから掴まっていろ」

抱き上げようとしたところで、少女から意外なほどの抵抗があった。
驚いて一瞬硬直した男に、少女はか細い声で言い募る。

「いえ、その…っ病気では、ないので…っ」
「だとしても体調が優れないんだろう。なら」
「あの…っその、薬を…飲み忘れただけなんです…っ、だから、」
「薬? それなら病気じゃないのか」

無理やり担ぐわけにもいかないので、アルベルトは彼女の言うことを聞く。
しかし病気でないと言う割には顔色は悪く、実際腕を話すとくずおれてしまいそうなほど頼りない。
どうしても引くことはないと判断したのか、白い顔をわずかに朱に染めて、彼女は彼の泣くような声で事実を告げた。

「毎月の…もの、なので…その、」

恥ずかしそうにそう告げる彼女の、言葉の意味をしっかり咀嚼しなければ呑み込めないくらい鈍感だったアルベルトは、気づいた瞬間硬直した。
どうするか、と逡巡するものの、いずれにせよここでは休めないと判断する。

「…悪い、抱き上げるぞ」
「え…? っ!!」

次の瞬間ふわりと足が地面から離れた。驚いて茶色の瞳を見開く彼女を直視しないよう、アルベルトは足早に、けれどもあまり彼女に振動が響かないよう配慮しつつ、その場を離れる。
混乱する彼女と同じくらい混乱していたのだと、後に彼は知ることになる。















ベッドにゆっくりと下ろされた少女は、困惑したまま、それでもそのベッドに寝てるしかなかった。まだ世界はぐらぐらと揺れている。立ち上がれる気配はなかった。
それに腹部に襲いかかる鈍痛も拍車をかける。いつもなら薬とサプリメントでどうにかしているものを、持ち歩くのを忘れたがために動けない状況にまで追い詰められてしまうなんて。
眉間に皺を寄せて痛みをどうにか苦しつつ、彼女はそろりと視線を向ける。
ここまで運んできた男――アルベルトは、数回話したことしかない相手だ。
そして、その数回で恋に落ちた相手でもある。
夢のような話だと思えるほど、前向きな思考回路はしていなかった。まさか彼に抱き上げられ運ばれてしまうなど。申し訳ない気持ちが募るばかりだ。
そんな彼女の思考など知らない彼は、ベッドサイドのチェストに水を置くと、扉に向かって歩き出す。

「フアナを呼んでくる、待っていろ」

そして彼は、足早に部屋を出ていった。















「…ん……」

ぼんやりと瞼を押し上げる。いつの間に眠っていたんだろうか。
まとまらない思考を中断して首を巡らせると、ベッド脇に座る女性の姿が見えた。
その女性がこちらを向いて、目が覚めた?と優しい声音で問いかける。

ゆっくり上半身を起こすと、背中を支えてくれる腕があった。
彼女の隣に、銀の髪の男がいた。

「アルベルト…さん」
「フアナを呼んできた。薬も持ってるらしい」

女性特有のもののことなどわからないアルベルトは、迷わずフアナに助けを求めた。
彼女を連れて戻ってきたときには、ベッド上の少女は眠りについてしまっていたのだ。

「はい、これ飲んでね。貧血がひどいみたいだし、もう少し横になってて?」

渡された薬を飲んで息を吐く。少し眠れたことで、幾分か症状はマシになっていた。
それを見ていたアルベルトが立ち上がる。

「寝ていろ。話は通してある」

そうして歩を進めようとしたことに気づいて、気が付けば――青を掴んでいた。
きょとんとしたフアナの大きな瞳と、驚いたように少し開かれた銀の双眸が少女を見る。
腕を伸ばして青い制服の裾を力なく握った少女は、いつもなら――数少ない言葉を交わす機会なら口にできないことを口にしてしまう。

「いかないで…」

苦しそうに眉間に小さく皺を寄せて、それでも腕を伸ばしてそう望む彼女の声に足が動かない。硬直してしまったアルベルトの代わりに、動いたのはフアナだった。
彼女は微笑むと、立ち上がってアルベルトの横をすり抜けていく。

「っ、おいフアナ!」
「あとはよろしくー」

ひらひらと手を振るフアナに困惑と切実な助けを求める視線を投げたが無駄に終わった。
右手で髪をかきあげる。細い銀が指の間からこぼれる。
普段から背のほうへ流すようにセットしてある銀が少し乱れて、その光景にどきりとした。

諦めたように、フアナが座っていた椅子に腰を下ろす。
少女を見れば、彼女の手はまだ青を掴んでいた。
その手をやんわりと外させて、ベッドに戻し、肩まで毛布をかける。

「冷やすな。…寝ていろ。ここに、いてやるから」

それ以外は期待するなよ。
困ったようにそっぽを向いてそう言うアルベルトに小さく笑って、少女はしんどいながらも幸せを噛みしめる。

「ありがとう、ございます」

すみません。
そういうと振り向いたアルベルトが少しだけ口角をあげた気がした。

「いいから。…寝ていろ、シズキ」


髪を一度、ふわりと撫でられて、幸福を噛みしめたまま少女は眠った。


































+ + +



「まさか自分の部屋に連れていくとはねー。無意識ってこわいなあ」

廊下を進むフアナは、そう呟いて笑った。


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