※性描写注意







 その場の勢いで連れてきてしまったオレの部屋でのシカマルの失恋話には、胸が痛んだ。オレと違ってシカマルは普通に恋をして、普通に幸せになるんだろうと思うと自分の存在がひどく不安定なもののように思えた。それに、シカマルのことを思えば、辛かっただろう、と思う。オレは誰かをそこまで想った末にそれが叶わなかったことが、ない。そこまで誰かを好きだとも思った経験がなかった。――それもシカマルに会うまでは、なのだけれど。だから、シカマルの失恋話は、二重の意味で、辛かった。
 そこで、相手が男だとはっきりと言わなかったにしろ、それと同じ意味の言葉を口にする。それでもにわかには信じられないことだった。確かめるように問えば、シカマルは頷きとともに答えを返してくる。シカマルが恋した相手は、男、だった。


「だから、お前が男を好きになるやつだって構いやしねーんだよ」


 その言葉で、ぐるぐると胸をめぐる想いが出口を探してもがきはじめた。伝えてもいいのだろうか、とそれも許されるのだろうか、と。溢れる感情を抑えようにも上手くいかなくて、興奮を抑えようとした身体の生理的な反応なのか、涙がこぼれそうになった。言ってしまえば、きっとシカマルを困らせることになる。言うな、と強く思っても、想いは勝手に口から滑り出してしまった。
 好きだ、と口にしてしまった。シカマルがどんな顔をしているか怖くて顔を上げることが出来ない。膝頭がじんわりと濡れる感触がする。ああ、泣いてるのか、オレ、とどこか客観的な気持ちでそれを感じた。
 グイ、と腕を引かれて思わず顔を上げる。目に入ったシカマルの顔はどこか追いつめられたような表情だった。どん、という衝撃を感じて一体何が起こったか分からないうちに息が詰まる。背中に感じるのはたしかに人の腕で、そこでやっと息が詰まるほどに抱きしめられていることに気付いた。慌てて離れようとしても、シカマルの腕の力は思いの外強くて無様にもがくことしか出来ない。うるさい心臓の音が気になって、尚のこと離れようとしたけれど、同じような速度で脈打つシカマルの心臓に気づいて抵抗をやめた。


「ちょ、シカマル……?」

 
 震える声で問えば、シカマルは抱きしめる腕をさらに強めた。物理的に息が詰まって、それ以上に心がぎゅうと締めつけられて息がうまく出来なかった。耳元ではあ、と溜息なのか、それにしてはやけに熱っぽい吐息が聞こえて声を上げてしまいそうになる。寸でのところで唇を噛んで耐えた。


「ほんとお前……っオレも、サスケが好きだ」


 うそだ、と気付けば口にしていた言葉に、シカマルはうそじゃねーよと返してくる。同じ速さで脈打つ心臓と、このオレを抱きしめている腕がその証であることはよく分かったけれど、素直に信じられない。でも、この現実を感じたくておずおずとシカマルの背中に手を回した。ぎゅっと力を込めて、シカマルの肩口に顔を埋める。する、と首の後ろを撫でてくるシカマルの手が心地よくてはあ、と息を吐いてしまう。肩を押されてシカマルの顔を見ると、また溢れそうになっている涙のせいでぼやけてよく見えない。乱雑な仕草で目元を拭ってもう一度見れば、シカマルの眉は情けなく下がっていて、今にも泣きそうだった。


「ひでえ顔」
「お前もな」


 そう言ってどちらともなく笑った。額と額をこつんとぶつけて、次に鼻先が触れるほど近くで見つめ合う。恥ずかしさと照れでいっぱいいっぱいだった。シカマルの鼻先が少し横に逸れて、あ、キスされる、と思った。すっと目を閉じるとすぐに触れ合った唇はどことなく湿っていた。ちゅっちゅっと押し付けあうだけの可愛らしいキスをして目を開けると、同じようにこちらを見ているシカマルと目が合う。とくんと跳ねた心臓のせいで目を反らしてしまうと、シカマルの手のひらがオレの頬に触れた。それに再び視線を戻せば、また唇が重なった。薄く開いた唇を割るように侵入してきた舌は熱くて一気に思考を奪われていくような心地がする。やんわりと舌を噛まれて、それからねっとりと絡んでくる舌に、本当に何も考えられなくなった。もっと、とでもいうように自分から舌を絡めて首に腕を回したオレにシカマルは少し驚いたように目を開いて、それから上顎を舐め上げた。
 奪い合うような、呼吸さえままならないキスが終わったころには、互いにすっかり息が上がってしまっていた。呼吸を整えながらも、まだ足りない、と訴える自分に苦笑する。シカマルがオレのことを好きだと言ってくれただけで十分すぎるはずなのに、そのうえこんなキスまでしておいて、まだ、足りない、なんて。


「シカ、マル……足んねえ……」


 熱っぽく囁いてみれば、その場に押し倒されて、また濃厚なキスが始まる。すぐ後ろにはベッドがあるのに、そこへ行くことすら考えられないくらいに、シカマルも夢中になっているのだと思うと嬉しくてまた涙が出そうだった。唇を食むようにしたあと、再び絡む舌は最初よりもよっぽど熱く感じられる。さっきのお返しにとシカマルの舌を柔らかく噛むとシカマルの睫毛が震えるのが分かった。そのうちに外される制服のボタンがなかなかすべて外れないのがひどくもどかしい。どちらのものか分からない唾液を飲み下したところで暴かれた胸の先端にシカマルの指が触れる。急な刺激に声を抑えることが出来なかった。オレの声にふっと笑ったシカマルは唇を手で触れている方とは逆の方へ寄せて吸いついた。


「んっ、あっ……シカマル……!」


 制止のために呼んだ名前も熱に浮かされた声音ではなんの意味もない。空いたもう一方の手でベルトを器用に外していくシカマルの頭を掴んで吸いつくのをやめさせようにも、ぐにぐにと指の腹で押され、ちろ、と舐められた挙句弱く噛まれてしまうとうまく力は入らなかった。外れたベルトが床に置かれる音で少し思考がクリアになる。しかし、寛げられた前に手を伸ばされ、優しく撫でられれば色めいた吐息をこぼすしかない。力の入らない腕でなんとかシカマルの顔をこちらに向かせ、呼吸を整えてから口を開く。


「……オレのこと抱けんのかよ」
「まさか自分が男抱きたいと思うなんて、考えもしなかったな。でも、今はお前が欲しくてたまんねー……」


 ぐり、と押し付けられた下半身に、シカマルの熱を感じてカッと顔が熱くなるのを感じる。十分に興奮していたそこは、つまりオレの姿でそうなったということで、それを考えると顔に集まる熱をどうにか出来るとは思えない。ちゅっと鼻先に落とされたキスに気を取られていると、自分の熱にリアルな刺激を感じて目を見開いた。握られて上下に扱かれるとあられもない声を上げてしまう。すでに滑りはじめたそこはシカマルの手の動きをなめらかにしながら硬さを増していく。目を閉じて唇を噛んでいるとシカマルの親指が唇をなぞっていく。


「声聞かせてくれ」
「んんっあ……やっシカ、マル…ッ」


 唇を割り開かれたおかげで耳を塞ぎたくなるような声が勝手にもれていく。同時に下の方では粘着質な音が聞こえてきて、羞恥に涙が浮かんだ。シカマルの指が唇から離れていったのに気付けずそのまま声を上げてしまうほどに余裕は奪われていた。カチャ、とベルトの音がして、視線をやるとシカマルの昂りが取りだされたところだった。それも自分の熱がシカマルに扱かれている様子越しに見えた光景で複雑な心境だった。
 あ、と思ったときには、シカマルの熱とオレの熱が重なっていた。裏筋に当たる熱の温度にくらくらするのを感じる。ぐっと握りこまれたときには今までで一番聞くに堪えないような甘ったるい声を出してしまった。


「っあ、んっ…ああぁッ…!」
「は、っ…」


 一緒に握りこまれ、同じように高められ、直に触れる熱に思考を溶かされてオレに出来ることと言ったら情けなく喘ぐことだけだった。自分のことに夢中になりがちだったけれど、時折耳に届くシカマルの声に必死に目を向ければ眉を寄せて、おそらく快感に耐える表情が見ることが出来る。その表情だけでもうオレは限界を迎えてしまう。


「ぁあ、っシカマル……っも、むり」
「も、ちょい…っん、」
「あ、……や、あぁッ…も、だめ……ッ」


 ビクっと身体を揺らして、オレは達してしまう。腹に散った熱に少しの不快感を抱くが、意識はすぐにいまだ擦られ続けるそこへ戻った。ぐり、と先端を押しつぶすように撫でられると達したばかりのオレには刺激が強すぎて身体が跳ねる。その感覚にまた甘く声を上げてしまったとき、触れていたシカマルの熱が脈打って、熱を散らした。オレのときと同じように腹に落ちてきたそれには不思議と不快感はなく、むしろ心地のいいものに思えた。達したシカマルはオレの横に手をついて息をつく。その熱っぽさに、ぞくりと背中に痺れが走った。
 腹に散った二人分の熱に手を伸ばして触れるとぐちゃりと卑猥な音がした。そのまま手を持ちあげてしげしげとそれを眺めているとシカマルが咎めるようにオレの名前を呼んで、そっと唇を押しつけてきた。


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