んん、と胸に抱いたサスケが身じろぎをして、胸に埋まっていた顔が少し上に向けられた。目蓋が震えて薄く開かれたそこからぼんやりとした黒い瞳が覗いて、そこに映る自分の顔を見つける。それはもう締まりのない顔をしていた。
 オレのことが好きだと言ったサスケを衝動的に抱きしめて、引き寄せられるままにキスをして、サスケに煽られるようにして抱いてしまった。まさかこんなことになるなんて思いもしないから、コンドームなんて持ってるはずもなく、うっかりそのまま入れたりして、その上我慢出来ずにナカに出してしまったりしてさぞオレはイケてねー男だったと思う。そうは言っても初めての経験だったんだから仕方ない。こんなに欲しいと思ったことなんて今までになかった。しかし、だ。あまりに手が早すぎたんじゃあないかと、責める自分がいるのも事実だった。いくらなんでも、気持ちが通じた途端って。もっと大切にした方がよかったんじゃないのか、眠りこんでしまったサスケを抱きしめながら考えても堂々巡りにしかならなかった。


「……シカマル」


 少し掠れた声で名前を呼ばれてどうした、と返す。背に回された腕にぎゅっと力が入って抱き寄せられる。甘えるようなサスケのそんな仕草が愛しくて素肌のままの肩に唇を落とす。わざとちゅっと音を立てて離すと黒の瞳が揺らめいていた。背に回っていた腕がするりと離れていってしまったが、物足りなさを感じる暇もなくその腕は首に回り、サスケの顔が首筋に埋められる。やわやわと歯が立てられたあとに吸いつかれて、唇が離れるとそのままぎゅうと腕に力がこもった。サスケの背中を手のひら全体でするすると撫でて、身体の隙間を埋めるように抱きしめる。
 思うままに抱いてしまったから、サスケのことを思いやる余裕なんてほとんどなかった。無茶をした、という自覚はあって、申し訳なさを感じながら宥めるように腰を撫でる。


「平気か?」
「ん……平気」


 さっき腰を動かしたときに寄せられた眉に気づかないオレではなかったけれど、サスケのその強がりも好きだと思えた。
 そういえば、最中にいっぱいいっぱいだったオレに対して、サスケはどこか冷静だったような気がする。はじめに後ろを慣らしたのもサスケだったし、その動きはやたらと手慣れているようにも思えた。まあ、サスケはオレと違って自分の性的趣向を受け入れていたようだったから、これまでにそれなりの経験をしてきたのかもしれない。ちょっと、嫉妬しちまうなあ、なんて思っているとサスケの窺うような視線がこちらに向けられていた。


「あー……オレ、はじめてだったんだけど、よ」
「……オレもここまでシたのは、はじめて」


 ここまで、と聞いてそれに至るまでのアレコレは経験があるのかと思うと複雑な気持ちになる。けれど、ここまで、っていうか最後まで致した経験がないって言うわりには。


「後ろ、慣れてなかったか……?」
「っ……!」


 オレの言葉に目を見開いて、そして居心地悪そうに目を反らしたサスケの顔はみるみるうちに赤みを帯びていった。うわあ、かわいい。じゃなくて!


「え、や、悪ィ変なこと言って」
「……それ、は」
「……?」
「…………ひとりで、するとき、に」


 キモチイイから触ってました、なんて言って胸に顔を押しつけてくるサスケに今度はオレが目を見開く番だった。知ってるぞ、それ、アナニーとか言うやつだ、多分。最中の蕩けたサスケのことを思い出せば自分でするときも相当アレな…なんて本人を前に妄想力を働かせてしまいそうになる。ぜひとも詳しく聞きたいとは思うものの、恥ずかしいのか顔を押しつけたままのサスケがこれ以上何かを話してくれるとは考えにくい。それにしても、誰かに手をつけられてたとか、そんなことがなくてひどく安堵した。
 ぐっと額が胸に押し付けられる感覚にかわいいなあ、と思っているとそういえば、と言ってサスケが顔を上げた。まだそこには赤みが残っていたけれど本人はおそらく気付いていないのだろう。


「なんでオレの電話番号知ってたんだ?」


 サスケの疑問にああ、と思い至る。会ったはいいけれどサスケの電話番号の入手経路については一切触れていなかった。よく考えてみればあそこで金髪男に会うことがなかったら今のこの状況だってなかったのだ。


「お前とバイト先一緒の金髪、って分かるか」
「ん…ああ、ナルトか、ナルトがどうした?」
「高校前でお前んこと待ってたら、そのナルト?、に会って。急ぎの用みたいだからって番号教えてくれた」


 なるほど合点がいった、と頷いたサスケはふっと柔らかく笑みをこぼした。助けられたなあなんて言うサスケにそうだな、と返す。鼻先をくっつけて笑いあった。


「幼馴染なんだ」
「へえ、あいつが」
「ちなみにファーストキスの相手だ」
「あ!?」


 不慮の事故だったな…と遠い目をしたサスケだったがその表情は決して苦いものだけではなかった。まあ、いいやつなんだろうとは思うけれど。あそこまで屈託なく笑うやつなんてそうはいないし、何よりサスケがこんな風に信頼しているのだから。でも、きっとオレの知らないサスケを知っているんだろうな、と思うと素直に妬ける。その焦燥を打ち消すように名前を呼んだ。なんだ、と甘く返ってくる声に胸をくすぐられる。


「もっと教えてくれ、お前のこと」
「……いいぜ、だからシカマル、お前もオレにぜんぶ、教えろ」


 美しく吊り上げられた唇に挑戦的な瞳が相まって、一生サスケには敵わないんじゃないかと思わされる。今までよりも強気な――多分こっちの方が素なのだろう――言葉に同じように口端を上げる。まだ、手にいれたばかりだから。前の恋は言葉にする間もなく散ってしまったけれど、今回は違う。今まさにこの手の中にあるのだ。全部、欲しい。知りたい。


「幼馴染でも知らねー顔が見たい」

 
 熱っぽい吐息と一緒に耳に囁き込めば小さく声をもらしたサスケがオレの頬に触れる。その手は顎まで滑っていき、オレの顎を掬い上げて、まるでキスでもするような動きを見せた。白くてきれいな親指が唇をなぞって、そのまま触れてしまいそうなほど唇が寄せられる。


「もう、見たじゃねえか」


 掠れた、それに艶が混じったような低く甘い声でそう言って目を細めたサスケは吊り上げられた唇はそのままにオレに噛みついた。少々荒々しさすら感じる口づけと、先のサスケの言葉にぞくぞくして目を閉じる。とんでもない男に引っかかったかな、と思う。でもこれだけ夢中になってしまったのだ、仕方ない。次にアスマに会うときはサスケのことを話してやりたい。オレの恋人だ、と言うとアスマはどんな顔をするだろうか。アンタの奥さんに負けず劣らずの美人だろ、そう言ってやろう。
 こぼれる息がどちらのものかは分からない。どちらにしろ甘い空気が脳髄を満たしていく心地がして、そのままオレたちは眠りについた。



change!(変えたのは、変わったのは)



End


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