金曜日に体調を崩してサスケに会いに行くことが出来なかった。考えてれば考えるほどに事態は悪くなっているように思えた。現実として、これは由々しき事態だった。
たしか、火曜日にもバイトであの店にいるはずだ、そう思ってオレは次の火曜日、店に向かった。しかし店の扉に見慣れない張り紙を見つけて、オレは絶句する。火曜から一週間、臨時休業します……。タイミングの悪さに、オレは神の存在を疑った。

 会わなければ、という想いは強くあるというのに、それは叶わない。もどかしさを持て余しながら一日を過ごし、木曜日の最後の授業を終えたとき、オレは思い立った。連絡を取ろうにもオレはサスケの連絡先を知らない。まったくと言っていいほどに、オレはサスケのことを知らなかったのだ。オレが知っていることと言えば、サスケの通う高校くらいなもので。そこまで思考が至り、そして決心する。もう会うためには自ら動くしか方法はない。終業後、HRを終えたオレは教室を飛び出した。廊下を走る途中で声がかけられたがそれに構っている余裕なんてない。サスケに、会いたい。

 電車を乗り継いでサスケの高校へ向かう。行ったことなんてなかったけれど、かろうじて場所くらいなら知っていた。一刻も早く向かいたいという想いはあった、それでも会って一体何を話せばいいのかも分からないという気持ちで足は普段通りにしか進まない。会いたい、と思う理由となっている感情に自分の中ではとうに名前がついていた。アスマのことをずっと好き「だった」人と言えるようになったのは紛れもなくサスケと出会ったからで。サスケのことなんて何も知らないけれど、これは、たしかに、恋、だ。

 高校に辿りついたのは、すでに陽が傾き始めてからだった。運悪くオレの高校は木曜は授業数がひとつ多い日で、そしてオレの高校とサスケの高校にはなかなかの距離がある。もう帰ってしまったかもしれないな、と思いつつも校門の前で足を止めた。校門から出てくる生徒は多くはない。それらの生徒からの視線を感じつつ(この制服はここらでは学校の名前も相まって目立つらしい)、サスケの姿を探した。
 しばらく、そこに立っていたと思う。かなりの時間が立ったのだろう、そろそろ周りも暗くなってくるだろうという様子だった。そういえば見える生徒はスポーツバッグをかけた姿が多く、おそらく部活帰りなのだろう。サスケは部活に入っていないと言っていたから、きっとこの時間になるまで学校に残っていることはない。本当にタイミングが悪いな、と溜息をついて外壁に背をつけて体重をかけた。


「え、あれ?」


 どこかで聞いたような声を耳にして、そちらにゆっくりと視線を移すと、そこには派手な金髪頭が目に入った。オレは思わず目を見開いてしまう。分からないはずもない、この男はサスケと同じレンタルビデオ店のバイトだ、日曜日にいつもカウンターに座っている!


「あ、やっぱそうだ。日曜の人だろ、いっつもアレなビデオ返してくる!」


 非常に残念な評価を受けていたがそれも事実なので反論出来ない。しかし同じ高校とは予想外だった。よく思い出してみるとたしかに同じ制服を着ていたようなそうでもないような。バイト先が一緒で、高校も一緒ともなれば、もしかしてサスケと知り合いだったりするのだろうか。


「こんなとこで何してんだってばよ? 誰か人待ってんのか?」
「あー、えーっとだな……うちはサスケ……って知ってるか?」
「知ってるもなにも……あいつならもう帰ったと思うけど」


 ですよねー!、と頭を抱える。どうやら知り合いのようだったがサスケはとうに帰宅してしまったようだった。どうしようか、もうそれこそ明日授業をサボってここで待ち伏せるしかないのだろうか。


「サスケに用だったのか?」
「まあ、な」
「トモダチだってば?」
「あー…一応?」


 ふうん、とオレの曖昧な返事に少し考えるような仕草をした金髪男はおもむろに携帯を取り出した。右手でポチポチと操作をしながら、左手がこちらに差し出される。何を意図しているのか分からずその左手を見つめていると顔を上げた金髪男がもう一度こちらに手を差し出す仕草をした。


「携帯貸せって! サスケの番号教えてやるってばよ」


 こんなとこまで来てるってことは急ぎの用なんだろ、なんて真剣な表情をする金髪男に呑まれてしまったのか思わず携帯を取り出して渡してしまった。こんな形でサスケの連絡先を知ってしまうことになってもいいのだろうか、と後ろめたい想いが胸中をめぐる。金髪男の指がオレの携帯を操作していくのを黙って見つめながらどうしようかと思う。番号を知って、それでどうすればいいのだろうか。かけてみたって、サスケがそれに出るとも限らない。出てくれたとして、何を話したら。


「ん」
「っと、ありがとよ」


 思考に耽ると他のことが疎かになってしまうのはオレの悪いくせだ。返された携帯を握り締めて再びどうしようかと考え始めたオレを知ってか知らずか金髪男があ、と声をあげた。


「あいつ登録してない番号からじゃ出ないかも。……まあそこはなんとかしてくれってば! オレ電車逃すとやばいからこれで行くな! また店来いよ!」


 手を振って明るく笑った金髪頭は大きなスポーツバッグをものともせず走り去って行った。出ないかも、なんて聞き捨てならないことを言っていたけれど、本当にどうしたものだろうか。携帯を開いてサスケの番号を表示させる。通話ボタンのところまで指を滑らせるが、そう簡単には押せない。
何を、言えばいいのだろうか。まずは謝罪だろうか。でも、別に金曜日に行くのが約束だったわけではない。もちろんタイミングは面白いほどに悪かったけれど。それに、サスケは男が好きなのだと言っただけだ。オレが好きだ、と言ったわけでもない。勝手に、オレが自分の恋心に気付いただけであって。会って好きだとでも言うつもりだったのか、オレは。
 気付けばそこは高校から少し離れた公園だった。小さな公園で、そこに子供の姿はなかった。申し訳程度に置かれたベンチに座って、携帯を握り直した。開きっぱなしの画面は暗くなってしまっていた。
 何を話していいかは分からない。でも、ここで縁が切れてしまえば後悔するのは紛れもなくこのオレだから。大きく息を吸って、オレは通話ボタンを押した。



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101224


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