風呂から出たあとは、特にやることもなくリビングでのんびりとしていた。
 風呂を出た直後は、小さくなったサスケが着ることのできる下着や服を用意していなかったせいで二人で慌てて探したりと大変だったけれど。サスケが昔着ていた服がきちんと残っていたおかげで困ることはなかった。タンスの奥から引っ張り出した子供服を着たサスケからは、虫よけの薬の匂いがした。

 ぐううとお腹のなる音が聞こえ、そちらに顔を向けると小さな身体をさらに小さく丸めたサスケがちらりとこちらを見ていた。無言で空腹を訴えられましても。時計を見てみればそろそろ夕方、夕食を作ってもいい時間だった。立ち上がってキッチンへと歩き、冷蔵庫の中身を確認してみる。ここ数日任務で家を空けていたサスケの冷蔵庫に、これといった食材は入っていなかった。

「サスケ、何食べたい」
「トマト」
「食材じゃなくてメニュー」
「……なんでもいい」
「なんでもいいが一番困るって……知ってんだろうがー」

 背を丸めていたサスケはシカマルがいなくなって空いたスペースに小さな身体を伸ばしてソファーを独り占めしている。本気で考えるつもりがないことが伝わってきて、溜息をついた。
 安売りしているもので考えればいいか、とメニューを決めるのを放棄して財布と鍵を取った。ごろんごろんとソファーの上を器用に転がっているサスケの横腹を足でつつくと、サスケは動きを止めてシカマルを見上げた。

「買い物行くけど」
「おう」
「……留守番できるのか?」

 眉をハの字にして酷く心配そうな表情で尋ねた。

「できるわ! さっさといけウスラトンカチ!」

 子供扱いされたことに憤慨したサスケは顔を赤くして手元のクッションをシカマルに投げつけた。ぽふんとぶつかるそれを受け止めて、行ってくる、の言葉と一緒にクッションをサスケの顔の上に落とした。猫を踏みつけたような声が聞こえた後にまたサスケが喚く声が聞こえてきたけれど、それは聞こえなかったことにしてシカマルは買い物に出かけた。



 今晩のメニューはスーパーで安売りしていたいくつかの野菜で作った野菜炒めと焼き魚でいいやと投げやりな決定をしたシカマルはほとんど時間をかけず買い物を終え、帰宅した。部屋の中はやけに静かで、それにつられてシカマルも息を殺してリビングへと向かった。
 リビングに入ってもサスケの姿は見えず、庭にでも出ているのだろうかと窓の方へ歩いて行こうとした時、クッションに混ざってソファーの隅で丸くなって眠っているサスケを発見した。すうすうと寝息を立てるサスケは、小声で呼びかけても覚醒する素振りを見せない。柔らかそうな頬をつんつんとつついてみても、穏やかな寝顔は変わらなかった。
 静かな部屋に響く小さな寝息を耳にしながら、キッチンへと向かった。サスケが眠っている間に夕食の用意をすませてしまおう。幸い時間のかからないメニューであることだし。シカマルはサスケの幼い寝顔を思い浮かべながら料理に取りかかった。


 それから十数分。部屋に空腹感を煽る香りが立ち込める。グリルの方の様子をちらと見て、いい具合に焼けていることを確認し、火を止めた。ふと、向こうの方でもそもそと物音がしていることに気付いてそちらに顔を向けると、寝起きのぼんやりとした目をぱしぱしとまたたかせながらサスケがキッチンへ歩いてきているところだった。大方匂いに気付いて目を覚ましたのだろう。きゅるると腹の鳴る音が聞こえてきた。

「何焼いてんだ」

 背伸びをしてグリルの中を見るサスケだけれど、よく見えなかったらしく眉を寄せてこちらを見上げてきた。いい具合に焼けた魚を取り出し、皿に載せてサスケに手渡す。

「塩ジャケ!」

 皿に乗った塩ジャケに目を輝かせたサスケは花を飛ばしながらそれをテーブルの方へ運んで行った。魚の切り身ひとつであんなに喜ぶやつだっただろうか。表情は完全に子供のそれで、胸のうちに温かいものが広がった。
 他の皿もテーブルに運び、二人で食卓を囲む。小さな手を合わせていただきますをしたサスケは長い箸を使いにくそうにしながら塩ジャケに取りかかった。しかし本当にやりにくそうである。小さな手には長いのか、未発達の手では上手く使えないのか。とにかく四苦八苦するサスケを眺めていると色々と世話を焼きたくなってしまう。

「食べさせてやろうか?」
「ばかにすんな!」

 よかれと思っての提案だったけれど、またサスケの勘に障ったようだ。ぷんぷんと怒りながら白米を口いっぱいに頬張ったサスケの頬は米粒がひとつついていた。指でそれを摘まみ取ると、文句言いたげなサスケと目が合う。

「どうした?」
「こどもみたいにあつかうなよ」
「実際子供じゃねーか。米粒つけてよ。まあ普段も時々つけてるか」
「つけてねえよウスラトンカチ」

 不満気なサスケは唇を尖らせてご飯をかきこんだ。野菜炒めにも手をつけて、塩ジャケも食べて、としばらくその様子を眺めているとぴたりと手が止まった。まだ半分近く残っている。
 そこで、やっといつもの癖で食事の量を普段通りにしてしまったことに気付いた。身体自体が小さくなっているのだから、もちろん胃だって小さいわけで、普段のように食べるはずもなく。そしてどうやら満腹になったことで眠気もやってきてしまったらしく。眠たそうな目が、少し申し訳ないといった表情でシカマルを見上げた。

「はらいっぱいになった」
「……だろうな。そんで眠いんだろ?」

 こくん、と頷いたサスケの頭を撫でて、サスケの残した皿にラップをかける。シカマルもしっかり食事を済ませたことだし、早すぎるくらいではあるがそろそろサスケを寝かしつけることにしよう。シカマルは眠たそうにまばたきを繰り返すサスケの頬をつついた。

「歯磨きして寝んぞ」
「はみがき……めんどい……」
「オレがしてやろうか?」
「……じぶんでする」

 シカマルは微笑ましげな表情を浮かべながら、むっつりとした表情でのたのたと洗面所へ歩き出したサスケの後を追った。



ちみサスといっしょ!4





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