ふかふかのベッドでこうもぐっすりと眠ったのは久しぶりのような気がする。自宅のものよりサスケの家のベッドの方が柔らかくて、実際いいマットレスでも使っているのだろうけれど、寝心地は最高で。寝起きのよくないシカマルも比較的気分良く目覚めることのできるベッドだった。しかしいつにも増してそのベッドは広く、そして温もりに満ちていた。
 ぱちりと目蓋を開いたシカマルは、目線の先にサスケがいないことに一瞬混乱した。なぜならその腕の中に人の温もりを感じていたから。サスケを抱きしめていると思って目を覚ましてみると、どこにもその姿がない。ならばこの腕の中の温もりは一体何なんだと視線を下げてみた。腕の中には、あどけない表情で眠っている小さなサスケがいた。
 小さなサスケを見てさらに混乱したけれど、昨日のことを思い出してシカマルは大きく息を吐いた。不運に身を晒したサスケはそれを意に介する様子もなく眠り込んでいる。歯磨きをおざなりに終えたサスケをベッドに運んで一緒に横になって、サスケが間もなく眠りについて。そこまでは覚えているけれど、恐らくそのまま一緒になって寝てしまったのだろう。時計を見るともうすぐ九時になろうかというところ。よく寝た。寝過ぎたと言ってもいい。シカマルはサスケをぎゅうと抱きしめたあと、そっと身体を起こした。ぐいと伸びをして脱力する。静かにベッドを抜け出ようと足を下ろした時、裾を引かれてサスケの方を振り返った。
 まだ眠たそうにまばたきを繰り返しているサスケの手にしっかりと握られた裾をじっと見たあと、シカマルはサスケの顔へと視線を移す。ぱちぱち、まばたきをするサスケにふっと笑った。

「おはよ」
「ん……はよ」

 目を擦ったサスケがのっそりと身体を起こし、布団がずれてサスケの上半身を見たシカマルは、目を丸くした。
 昨日はぴったりだった服が、それはそれは窮屈そうになっていた。もはやどうやって脱ぐのか、と疑問を持ってしまうくらいに。身体の変化に気付いたのか、服の様子を見たサスケはびくりと肩を揺らした。

「なんだこれ……」

 よく見てみれば、昨日より、大きくなっている。年齢でいうと、昨日が5歳にならないくらいの子供だったのが、今日は9歳くらいといったところだろうか。まだ実年齢に比べて子供には違いなかったけれど。

「これ、いきなり戻るんじゃなくてじょじょに戻るのか……?」

 サスケから問うような視線を投げかけられるけれど、シカマルが詳細を知るはずもなく。同じように首を傾げながら、答えるでもなく唸った。

「まあ現実として成長してるしな……多分そういうことなんだろ」
「……ねてる間にか」
「いつ成長してんのかは分かんねーけど」

 昨日よりはっきりと喋るようになったサスケに微笑ましさを感じて頬が緩む。シカマルの表情にサスケは片眉を上げたけれど、何も言うことなく窮屈な服へ視線を戻した。

「これぬげんのか」
「どう見ても一人じゃ無理だろうな」
「……ぬぐぞ、手伝え」
「へいへい」

 サスケが小さい頃から着ていたものだし、折角だから綺麗に取っておきたいものではある。しかし、身体が大きくなりすぎている。腕を抜こうにも隙間がほとんどない。腕さえ抜ければあとは上から引っ張るなりして脱ぐことができると思う、けれども。
 四苦八苦しながら服を引っ張って隙間を作り、サスケは顔を赤くしながら無理矢理腕を抜いた。はあ、と脱力したところを狙って服を上に引っ張りあげるとすぽんと頭が抜けて、なんとか脱がせることに成功した。たったこれだけに疲れ切って、シカマルはサスケもろともベッドへダイブした。

「お前な……でかくなるなら最初から言っとけよ」
「知ってたら言ってるっつーの。はー……朝からつかれた。ねむい」
「どんだけ寝るんだお前は」

 ふわふわの頭をぽんと叩くとサスケはくすぐったそうにして笑った。表情はまだ幼い。愛おしさに駆られて額に唇を寄せた。そのまま抱き締めると、細い腕がこちらに伸びてくる。きゅうと抱きついてきたサスケの素肌を優しく撫でた。
 子供ができたら、こんな風に戯れることもあるのだろうか。子供が欲しい、なんて口が裂けても言えることではないけれど。傷つけたいわけではなくて、純粋に自分とサスケの血を受け継いだ子供が生まれてくれたら、それは一体どれほど幸せなことだろう、と思う。どちらかが女だったらいつか、こんな風にして、今度は二人で小さな子供を抱きしめることができただろうに。サスケの背中を撫でながら、やって来ることのない未来を想像した。

「なあ、シカマル」
「ン?」
「お前子供すきだろ。ほしいと思っただろ」
「……なんで」

 普段より幾分高い声が、耳元で聞こえる。見透かされたようでどくりと心臓が跳ねた。
 子供ができたら、そんな想像はしたけれど。本当に欲しいわけではなくて。

「だってきのうすげえかわいがられた」
「……実際お前みたいなのを前にして可愛がらない奴はいないと思うぜ」
「そりゃオレは天使のごとくかわいいにちがいないけどな」
「自分で言うな。事実だけどよ」
「……悪ィな」
「馬ッ鹿ここで謝られたらオレが悪い奴になるだろうが」

 ぺしんと頭を叩いてサスケの頬をぐにと掴んだ。可愛らしい顔が無残に歪む。そんな顔も愛らしい。きっとサスケだからこれだけ可愛くて仕方がないに違いない。子供だからとか、そういうわけではなくて。

「可愛いのはサスケだからで、オレはサスケがいりゃあいいんだよ」

 柔らかい頬にちゅっとキスをすると、くりくりとした目がシカマルを見つめたあと、ふっと穏やかな笑顔を浮かべた。子供のする顔ではない。どきりとさせるような表情にシカマルは舌を打った。

「普通だったらこのままなだれ込む流れだってのに!」

 ぱちくりと目をまたたかせたサスケは意図を理解して声を上げて笑った。子供の笑い声が部屋いっぱいに広がる。

「ハハ、悪いことはお預けだな?」

 そう言ってまた大人びた表情を浮かべたサスケに苦虫を噛み潰した心地がした。最後に抱き合ったのは一週間ほど前のことだ。どう考えたっておいしい状況なのに。サスケが、小さな子供になっているだなんて。幼い少年を前に事に及ぶことを考えただけていけないことをしている気分になって首を振った。中身がサスケであるにしても、だ。
 あれだけ愛おしかった小さなサスケが途端に憎らしくなって、こつんと小さく小突いた。

「いて」
「さっさと戻れよ。やっぱり普段のサスケが一番可愛い」

 頬を染めたサスケが無邪気に笑うのを見て、シカマルは大きな溜息をついた。



ちみサスといっしょ!5



END


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