二度の攻撃を受けた脛を労わるように撫でていると、そのうちに風呂が沸いた。半裸状態で部屋をうろうろしていたサスケを捕獲して、風呂場へと連行する。サスケに風呂が沸いたと告げると瞳をきらめかせてあっという間に服を脱ぎ捨て、風呂場へ走っていった。濡れたタイルの上に勢いよく走り込めばどうなるか、想像するに易い。しかし幼子とは言え中身は十代も半ばを超えた男なわけで、一抹の不安を抱えながら服を洗濯機に放り込んだ時、風呂場から何かがひっくり返ったような音がした。
 何かって、もう確認しなくても分かるけれど。風呂場のドアを開けてみると、ドアの方に小さな尻を向けて、尾てい骨を押さえているサスケの姿があった。後ろに滑ったらしい。痛いのは尾てい骨ということは幸い頭を打つことはなかったようだった。

「大丈夫か?」
「……」

 トイレの時といい今といい、転んでも声を上げないところはサスケらしい。けれど、その後の反応はやはり普段のサスケとは異なっている。トイレの時と同じく、黙ったままふるふると身体を震わせている。普段なら考えられない失態に衝撃を受けているのだろう。

「くつじょくだ!」
「……二度目だな、それ」
「そうだにどめだ! くそ、なんだこのからだ」

 涙目になりながら立ち上がったサスケはキッと空中を睨みつけた。その小ぶりな頭をぽんぽんと叩いたあと、湯加減を確かめるために手を湯の中に入れた。少し熱い。
 小さいサスケが来る前に、今日は早めに熱い風呂に入ってゆっくりしようと考えていたことを思い出す。サスケが小さくなることは予想外だったけれど、これは予定通りだ。満足気に頷き、サスケを抱え上げた。

「わあっ!?」

 ひょいと持ち上げて、そのままシカマルも湯船へ足を踏み入れた。湯につかった足が熱い。そっとサスケを中におろし、息を詰めて湯船へと身体を沈めた。

「あつい」

 ぶすっとした表情でサスケが呟いた。サスケの白い肌は湯船につかっている部分だけ真っ赤になっていた。そういえばサスケの自宅で風呂を沸かすのはサスケだったから、風呂の湯加減はサスケに任せきりで。たしかにいつも入る風呂はもう少し温かった気がする。自宅と同じ調子で温度を設定してしまったから、サスケには熱すぎたようだった。
 蛇口をひねって少し水を足す。いい温度になったのか、サスケは紅葉のような手で蛇口を戻して、首まで湯につかった。安心しきった顔でほうと息をついたサスケにいたずら心が刺激された。ぴん、と指でサスケの顔に湯をはねる。ぴゃっと小さい悲鳴を上げたサスケは大きな瞳をカッと開いてぐりんと顔をこちらに向けた。

「なにすんだてめえ」
「油断し切ってたからつい」
「……このやろう」

 低く押し殺したような声が聞こえるが、それも普段聞いているものよりも幾分高い。可愛いなあと思わず緩んだ顔に湯が飛んできた。滴を飛ばすとか可愛らしいものではない。洗面器使って全力で湯をかけにきやがった。
 濡れて落ちてきた前髪を後ろに撫でつけ、サスケの方を見るとしたり顔が視界に入る。実に小憎らしい表情だけれど、そこもまた可愛いと思えてしまうのは惚れた欲目なのか、サスケが生まれ持った愛らしい顔のおかげか。どちらにしろ人生得してるな、と笑うと、サスケがきょとんとした表情を浮かべた。

「なにわらってんだよ」
「別に? 可愛い顔しやがって、と思っただけだ」
「はァ? ふろわかしたついでにあたまもわいたのかかわいそうに」

 言うことは全然可愛くない。逆に可愛い気もするけれど。
 またサスケの顔に湯をはねさせると、サスケは先ほどと同じ反応をした。普通なら避けるか、シカマルが行動を起こす前にそれに気付いて止めるかだけれど、小さいと注意力も散漫になるのだろうか。怒ってきゃあきゃあ喚くサスケを強引に湯船から連れ出して、椅子に座らせた。

「なんだよばか!」
「シャンプーしてやるって」
「じぶんでできるわぼけ!」
「大人しく洗われろ」

 有無を言わさず頭からシャワーを浴びせかけると大人しくなった。手にシャンプーを出して少し泡立て、髪に手を伸ばす。いつにも増して柔らかい髪の毛に指を通しているうちにすっかりサスケの頭は泡だらけになった。

「頭洗っといてやるから身体洗っとけよー」
「うるせ」

 唇を尖らせたサスケだったけれど、大人しくすぐに身体を洗い始めた。もっちりとした泡でサスケの髪を弄び、最終的にとんがり頭にしたところでシカマルは自分の髪にもシャンプーを出して簡単に頭を洗い流した。

「シカマル!」
「なーんだよ」

 身体を洗い流していると、切羽詰まったような声が聞こえて片目でサスケを見ると、こちらに身体を向けたサスケはぎゅうと目をつぶっていた。

「どうした?」
「はやくながせよ!」
「もう終わるって。髪で遊んどけよ」
「こどもか! ……いたいんだよ! めが!」

 サスケの言葉にぱちくりとまばたきをして、自分も昔はシャンプーの時目が開けられなかったことを思い出し、笑みが浮かぶ。

「いまわらっただろふざけんなもういいからシャワーかせよくそが」

 見えていないはずなのに敏感にそれを感じ取ったサスケは高い声でシカマルを罵倒しながら小さな拳でシカマルの胸を叩いた。
 子供になる前と今とでは、口の悪さも違う気がする。子供の身体に引きずられて精神的に幼くなりつつあるのは確かだろうけれど、こんなに口の悪い子供だったのだろうか。口がいい方ではないとは思うけれど、二言目には暴言では閉口してしまう。いや、可愛いのだけれど。それも含めて愛おしいのだけれど。
 今度はサスケに伝わらないように笑って、弱めのシャワーでサスケの顔に流れ落ちてきていたシャンプーを流した。そのまま頭の泡を洗い落とすと、最初と同じようにサスケを抱えて湯船につかる。ふう、と安堵の溜息をついたのは二人同時だった。


ちみサスといっしょ!3





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