小さな身体でじたばたと暴れるサスケはそのまましばらく歩いているとすっかり大人しくなった。大きな声を出して暴れていれば必然的に周りの視線を集めることになる。身体が幼児へと退行してしまっていることを知られたくないサスケは黙らざるを得ない。それから、もしかすると小さな身体には暴れ続けることは思いの外重労働だったのかもしれない。サスケはシカマルの胸に顔を押し付けて、自宅へと戻る間一切口を利こうとしなかった。
 無言でポケットから鍵を差し出したサスケからそれを受け取り、シカマルは鍵を開けて久々にサスケの自宅へと足を踏み入れた。大人しくしていたサスケをつい撫でたくなり、ゆっくりと身体を下ろしてやるとサスケは床に足をついた途端、シカマルの脛めがけて全力の蹴りを入れてきた。

「ッ痛ェ!」

 子供の力とは言え、脛を蹴られれば痛い。思わずしゃがみ込んで脛を押さえて痛みを殺しているシカマルをよそに、サスケはとてとてと家の奥へと歩いて行ってしまった。
 黙っていたのはやはり目立ちたくないからで、静かに怒りを燻らせていたらしい。天使のような顔をして酷いことをする。痛みで涙ぐみながら、靴を脱いでサスケに続き奥へと歩いた。

「なあ、そのうちって具体的にどれくらいなんだ?」

 未だぷんぷんと分かりやすく怒っているサスケはフンと鼻をならした。身体が幼児化しているからか、それに引きずられて少しばかり精神的にも幼くなっている気がする。サスケの機嫌の善し悪しを見分けることくらいできるつもりだけれど、この反応はあまりにも分かりやす過ぎる。

「わかってたらいうにきまってるだろ! わかんねえからこまってんだよウスラトンカチ」

 すげー怒ってる。舌っ足らずに怒ってる。こんな状況でこんなこと言えばさらに怒りを増長させるだけだから言わないけれど、すげー可愛い。可愛過ぎて頭撫でさすって抱きしめて頬ずりしたいくらいには可愛い。

「ひとのはなしきいてんのかてめーは!」
「ちゃんと聞いてるっつーの」
「じゃあそのへらへらしたつらァどうにかしやがれ」

 大きな黒い瞳がきらきらと光を反射させながらこちらを見つめてきた。サスケからしてみれば思い切り睨んでいるのかもしれないけれど、どう転んでも可愛い。睨もうとした結果うるうるした瞳で人を見上げることになってしまった挙句その現実に気付いていない辺りが可愛い。
小さなサスケを見てから何度目になるか分からない可愛いを心の中で呟いて、口元を隠した。やはり緩んだ表情を隠すことはできなかった。
シカマルが顔を覆って頬を揉んでいると、ソファーに腰を落ち着けていたサスケがそこから飛び降りた。たん、と着地したサスケはぺたぺたと音を立ててシカマルの横を通り過ぎる。

「どした?」
「トイレだ」
「……行けるか?」
「ばかにするな!」

 親切心から申し出たのだけれど、またサスケの逆鱗に触れてしまったようできゃんきゃんと吠えられてしまった。
 幼い後ろ姿を見送りながら、子を持つ親の気持ちをほんの少しだけ垣間見た気がした。サスケとこの関係を続ける限り、血縁のある子を持つことはないから子を持つことなど想像もしたことがなかったけれど、存外悪くない。自分の中に眠っていた父性を考えるといざ子を持ったとしたら子煩悩な親になるだろうな、と小さく笑うとシカマルはサスケが座っていたソファーにどすんと身体を預けた。
 ふうと一息つく間もなく、トイレの方から派手な音と悲鳴が聞こえた。びくりと肩を揺らし、立ち上がってトイレへ駆け込んでみると、身体の半分ほどを便器の中に浸してぶるぶると震えているサスケの後ろ姿があった。

「く……」
「く?」
「くつじょくだ……!」

 用を足そうとしたが身長が足りず、便器の上に立とうとしたらバランスを崩して可哀相なことに便器内へ落下してしまったそうだ。普段のサスケなら有り得ない。そもそも普段のサスケであれば便器に落下できないことを思い出した。

「とりあえず濡れてるし……終わったら風呂入るか……?」
「……はいる」

 一人で用を足すことすらままならないことがショックだったのか相変わらずぶるぶると体を震わせているサスケの背中を宥めるように撫でると、サスケは小さく頷いた。

「じゃあ風呂沸かしてくるな」

 ポン、と背中を叩いて風呂へ向かう。
 可哀相だけれど同時にそんなところが愛おしくあり、笑ってしまいそうになるのを必死で抑えた。可愛過ぎる。サスケと過ごすことで何度も心臓が持たないと思ったことはあった。しかし、今回は今までとは性質を異にする。よからぬ気を起こしているわけではないけれど。可愛過ぎてどうにかなりそうだ。額に手を当てながら溜息をもらす。
 風呂の準備をし終えて洗面所に出ると濡れた服を洗濯機に放り込むサスケと遭遇した。そこではた、と一体どこでその身体に合った服を手に入れたのだろうか、という疑問が浮かんだ。

「その服、お前のなのか?」
「いや、じっけんしつにいたやつからかりた」
「なんでンなもん持ってんだよ」
「しるか」

 大方、以前に同じ実験をしていて実験台になって実際に身体が小さくなった人間がいるのだろうけれど。それでも具体的にいつ戻るか分からないと言うことは、個人差があるということか。
 サスケに視線を合わせるようにしゃがんで、頬に散った水滴を拭った。

「風呂、一緒に入るか?」
「はァ? だれが……」

 小首を傾げながら言うと、心外だとでも言いたげに声を上げたサスケだったけれど、先のトイレでの失態を思い出したのか口を噤んでしまう。小さな身体で風呂に入れば、危険はゼロではない。普通なら余裕でも、実際さっき便器の中に落ちたことを考えると、更なる失態を重ねる可能性がある。サスケはしばらく俯いて考えたあと、こくんと頷いた。

「おー、よし、オレが洗ってやろうな〜」

 素直な返事に気を良くしてサスケの頭をぐりぐりと撫でると、子供扱いされていることに苛立ったサスケに本日二度目の脛への蹴りを頂戴した。



ちみサスといっしょ!2





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