おいしいね | ナノ
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焼き上がったパンケーキの一枚に発酵乳を塗って、平らにならす。
そこにもう一枚を重ねて同じように塗ったら、いよいよ飾りつけだ。
パンケーキのキャンバスに、二人で思い思いに果物や木の実を並べていく。

「ルカ、見て見て!オレンジと木の実で作ったよ!」
「わ、ウサギですね。さすがです、アルムくん!」
「へへ…」

様々な形に切られていた果物。アルムはそれらを活かした飾りつけをしたのだ。
ルカにもそれを促そうと思ったが、大抵“不器用だから”とやんわり断られてしまうので何も言わずにいた。
のだけれど。

「では、私もアルムくんにならって…」
「えっ」
「どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない」

アルムはついおかしな声を出してしまった。
彼の“不器用だから”は謙遜ではなく本当の事なので、まさか乗って来るとは思わなかったのだ。

―――普段やりたがらない事まで進んでやろうとするなんて、今日は本当に珍しい事づくめだ。

という言葉は心の中に仕舞っておいて、飾りつけを見守ることにする。
ルカは楽しんで作りつつ、遺憾なく不器用を発揮していた。

「こんなものでしょうか」
「うんうん、すごく上手だよ」
「ふふ、ありがとうございます。今回はアルムくんのお手本があったので上手く作れました!」

自分のものと隣り合うように作られたウサギは、客観的に見るとお手本にならったにしては少々アレンジが利きすぎているような。そんな出来栄えだった。
けれども、今までに比べたら上手く作れているのは本当だとアルムは思っていた。

惚れた欲目ではない。断じて。

____________


並んだウサギのちょうど間で切り分ける事に決めて、ルカがナイフを手に取った。けれども、なかなかパンケーキに切り目を入れられないらしい。

「…切ってしまうのが勿体ないですね」
「うん…。でも食べずに悪くなっちゃうのはもっと勿体ないよ」

隣に座っているアルムの言葉を聞いて首を縦に振ったものの、尚もルカはナイフを入れようとしない。
気持ちは痛いほどわかる。アルムが今の彼の立場なら、悪くなるのが勿体ないと言われても絶対に切れないから。

「ルカ、一緒に切ろう」

言うが早いか、ナイフを持つルカの手に自分の手を添えて。

「せーの、で、行くよ」
「は、はいっ」

突然の事に驚いた様子だったが、アルムも一緒になった事でルカも覚悟を決めたらしい。パンケーキの真上にナイフを移動させ掛け声を出すと、ついに切り目が入る。そのまま手を動かせば、パンケーキは無事二等分された。

それぞれの皿に取り分けて、いただきますをする。

(あれだけ調べて作ったんだし、きっと大丈夫だ)

何となく不安を感じて、念の為小さく切り分けて口に運ぶ。
パンケーキの優しい甘みの後から、発酵乳とオレンジの爽やかな酸味が広がった。これなら自分も美味しく食べられる。

聞いてみようと目をやると、かちりと視線がぶつかる。

「アルムくん……どうですか?…食べられそうですか」

心配そうな瞳で聞かれてしまった。不安だったのはルカも同じだったらしい。

「美味しいよ!これならいくらでも食べられる」
「ふふ…お口に合って何よりです。では、私も…」

ルカは安心したように目尻を下げると、パンケーキを頬張り始めた。

「どう?幸せ?」
「もちろん。計画を立てるのも、買い物も作るのも、それに食べるのも。ぜんぶアルムくんと、一緒だなんて、この上ない、しあ、…っ、せ、」
「えっ」

言いかけたルカの瞳から雫が伝いはじめるものだから、アルムは動揺してしまった。
本当は美味しくなかったとか、そもそも作りたくなかったとか。後ろ向きな理由が頭をよぎる。
乗り気でないのに気付かず付き合わせてしまっていたのなら、恋人失格ではないか。
どんな言葉をかければよいか分からず、アルムは涙を流す彼を見つめている事しかできなかった。

「すみっ…、ません。嬉し、すぎて……感極まって、しまいまし…、て」

言われて思わず安堵の溜息をつく。どんな事を言われるのかと冷や冷やしていたから。
泣くほど嬉しく思ってくれるのはこちらも嬉しいが、どちらかと言えば笑ってほしい。そのために今回の計画を立てたのだ。

それを伝え、泣き止むまでルカの目蓋に口づけてやる。暫くすると落ち着きを取り戻したのか、くすぐったそうにはにかんでみせた。

涙が引っ込んだのを確認してから、「じゃあ食べよう」と促して。
再びパンケーキを頬張るルカは、幸せそうな、ほんわかした表情だった。アルムの好きな表情だ。

「うんうん。どんなルカも好きだけど、やっぱり笑っているのがいちばん好きだな」
「ふふ、アルムくんのお蔭です。ありがとう」
「僕の方こそありがとう。美味しいものも食べられたし、ルカとのいい思い出も増えたしで、すごく幸せだ」

「またやろうね」と。そう告げれば、ルカは花が咲いたような笑みをアルムに向けた。



おつきあいありがとうございました!
発酵乳の定義はかなり広いようなので、ここでの発酵乳はヨーグルト的なものとしております

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