いっしょにつくると | ナノ
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手持ちの干し果物を頬張るルカと、それを見つめるアルム。
甘いものを食べている時のルカは、いつも幸せそうだ。
店で少し贅沢な焼き菓子注文をした時なんかは、ソワソワしながら席に品物が運ばれてくるのを待っている。好物なのだから当たり前だとは思うけれど。

ずっと見ていられるなあ。そう思ってずっとルカを見つめていると、怪訝に思った彼が首をかしげてアルムを見つめ返してきた。やましい気持ちもないので、アルムは思っていた事を正直に告げる。

「僕、好きなんだ。お菓子を食べている時のきみを見るの。幸せそうで、ほんわかしてて」
「ふふ、現に幸せですから」

ルカはそう返すと、再び干し果物を口に入れた。まさに“幸せを噛みしめている”なと、アルムは頭の中で独りごちる。

「ねえ、僕も一緒にお菓子を食べたら大好きが重なるじゃない。もっと幸せになれるんじゃない?」

大好きなものを食べて幸せになれるなら、大好きな人と一緒にそれを食べれば、相乗効果を得られるではないか。

そう考えて提案してみれば、先ほどまでのルカの表情がガラリと変化した。
目を見開いて、果物を飲み込んだと思ったら、信じられないとでも言うように素っ頓狂な声が上がる。

「そんなに驚かないでよ」

子供のような考えだったけれど、冗談を言ったつもりはこれっぽっちもない。
拗ねたように頬を膨らませ訴えると、ルカはハッとして口を開く。

「すみません、あんまり意外だったものですから。アルムくんの言う通りだと思います。でも、きみは…」
「自然な甘さのものなら食べられる。次にどこかの街に駐留できたら一緒にパンケーキを作ろう」
「パンケーキ、ですか?」
「うん。前から考えてたんだ。自分たちで作るなら甘さも調整できるじゃない。他にも色々工夫して、僕らだけのパンケーキにしよう」

アルムの言葉を最後まで聞いたルカは首を縦に振って。

「楽しみです。とても」

目を輝かせながら、そう告げた。

_________

いよいよ決行の日がやってきた。

一緒に食べるのだから大き目のものを2枚焼いて、パンケーキサンドにして切り分けて食べよう。

ということを決めてから、二人でしっかりレシピを調べて、甘さはこのくらいにするとか、飾りはどうするだとか。今日まで綿密な計画を立てていた。

それらの確認をしながら、小麦粉やバター、蜂蜜に卵に果物。他にも色々と買い込んで、借りた厨の作業台に並べていく。

「はいはい!僕が生地を作るよ!」

計量を終わらせた時、アルムが意気込んだ様子で申し出た。
合間を見ながら一生懸命に手順を頭に叩き込んでいたのを知っていたので、ルカもそれを快諾する。

「では、私は飾りつけの支度をしましょう。よろしくお願いします」
「任せて!」

アルムは胸を拳でドンと叩き、元気よく返事をして、計量した材料をボウルに入れていく。
「頼もしいですねぇ」と微笑んで、ルカも作業を始めた。

__________


「これに、小麦粉と、ふくらし粉を加えて…軽く、かるーく、まぜれば…」

覚えた手順を口に出して確認しながら、丁寧に作り進めていく。おいしく食べられるようにと気持ちも込めて。

「うん!生地は完成。ルカ、そっちはどんな感じ?」
「あとは細かくしたオレンジの果肉を混ぜるだけです」

顔を向けてみれば、クリームの代わりの水切り発酵乳を作っていた。
傍の皿の上には色々な切り方をされた果物が並んでいる。調べた本で見た果物と同じ切り方だった。

待っている間に焼く準備をしておこうと、アルムはフライパンを取り出した。
一緒に焼こうと決めていたので数はふたつ。バターをひとかけらずつ入れて火にかける。

濡れ布巾の上にフライパンを乗せたところで、支度を終えたルカがアルムのそばへやってきた。

「よし。フライパンの準備もできたし、早速焼いていこう」
「はいっ!」

完成が見えてきたからか、返事をしたルカの声は弾んでいた。
生地をフライパンに流し込んでいる時も嬉々としていて、可愛いなあなんてアルムは思っていた。

「いい香りがしますね。ああ、待っている間にお茶の準備をしてしまいましょうか」
「ルカ、楽しみなのは分かるけど落ち着いて。火が足りないよ」
「……あっ…、そうでした。すみません、浮かれてしまって」
「ううん。ルカの珍しい一面が見れて、僕も嬉しい。もっと見たいくらい」

満面の笑みで言って、頬にひとつ口づけを落とすと。

「……ええと、…お皿を、取ってきます」

照れてしまったのか、ルカは赤い顔をしながら食器棚に向かっていった。

盛り付け用の皿を持って来ると思いきや、戻った彼はティーカップの受け皿を手にしていて。本当にうっかりしていたらしい。気付くとますます顔を赤くした。

アルムの“もっと見たい”という願いは早速叶ったのである。



まだつづきます

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