よこだき | ナノ
翌朝。
ルカはぼんやりと目を開けた。隣で一緒に眠っていたはずのアルムがいないのと、外から聞こえる人々のざわめきで、日が高くなり始めている事を知る。
(いけない。早く支度をしないと)
今朝は拠点周辺の見回り当番だったのに、完全に寝過ごしてしまった。
慌てて立ち上がると、胸元がヒヤリとして息をのむ。
(……そうだった)
昨日の出来事を思い出し、ペタンと座り込んだ。
天幕の出入口を背にしてシャツとサラシをはだけると、胸に当てていたガーゼが乳汁を吸って重くなっていた。それに少々、張っているだろうか。
胸の相手をしている暇はないけれど、ガーゼを交換しなければ染み出してしまう。
早急に交換を終わらせ、濡れたガーゼを仕舞い込む。
それと同時に、天幕の外から自分を呼ぶアルムの声。ルカはいそいそシャツの前を閉め、声のした方に向き直った。
「起きてたね、おはよう。気持ちよさそうに寝てたから、代わりに見回り行って来たよ。あとご飯も持ってきた」
出入口が開かれ、アルムが入ってきた。言葉通り手には食事。それと、皮袋に入った飲み水を肩から2つ下げていた。
「おはようございます。すみません、私が不甲斐ないばかりに…」
迷惑を掛けてしまった済まなさから、ルカはシュンと俯いた。そんな彼の手を、アルムはきゅっと握りしめて微笑みながら。
「謝らないで。心も体も疲れちゃってたんだよ。皆にはルカは調子が良くないって伝えてあるし、僕がずっとついてる。治るまでゆっくりして」
「アルムくん、すみま…」
「こういう時は“ありがとう”って言うの」
さんはい、と合図をしたアルムに、ルカは少しだけはにかみながら「ありがとうございます」と告げた。
「うんうん、よくできました。じゃ、ご飯にしよう」
ルカの額に口づけをひとつ落としてから、アルムは食事と皮袋を手渡す。
安堵感からか。ルカは体が空腹を訴えていたことに、ようやく気が付いた。
_________
「ね、ルカ。胸張ってない?痛くない?すぐ楽にしてあげるから、我慢しないで教えて?」
食事を済ませて、取り留めもない会話をしていた時だった。
物欲しげな顔で尋ねた後、そろそろと壊れ物を扱うようにルカの胸に触れたアルム。
楽にてあげるとは言っているが、瞳は目いっぱい開かれていて、いかにも「飲ませて!!」と言いたげな雰囲気を醸し出していた。
張ってはいるが、昨日ほどの痛みはない。
けれども、このおかしな症状が現れてから世話をかけっぱなしだと感じていたルカは、アルムの欲求に応える事にした。
シャツをはだけて、胸を覆っている諸々を取り去って。
「言われてみれば、少し…。……アルムくん。お願いできますか」
「うん!任せて!!」
招くように両腕を広げれば、アルムは勢いのある返事をしてすぐさまルカの足の間に腰掛ける。ちょうど、ルカに横抱きされているような姿勢になった。
「…、んっ、」
すぐ口に含むと思いきや、乳輪付近を摘ままれてルカは思わず体を震わせる。あらゆる角度からしつこい程に摘ままれて、少し痛かった。
何をしたいのかとじっとそこを眺めていると、気が付いたアルムが口を開く。
「張ってる時は、ちょっと揉んで柔らかくしてあげると、道ができてたくさん出るようになるんだって。ロビンから聞いた」
「ロ…、ロビンくんから?」
「うん、兄弟がいるから。お母さんから聞いたんじゃないかな」
滴り出した乳汁を舐め取りながら、尚もアルムはルカの胸を摘まんでいる。
たくさん出るようになったら困ってしまうので、できることなら御免こうむりたいというのがルカの心中である。
アルムが落ち込んでしまうかもしれないから、口が裂けても言わないが。
ぼうっとそんな事を考えていると、摘ままれていた方の胸が生暖かくなった。ようやく準備ができたらしい。
興奮した様子でしゃぶりついていた昨日とは打って変わって、吸う力は強すぎず弱すぎず、音も控えめ。
たった一回でアルムはもう要領を得てしまったのだろうかとルカは驚いた。
(このお乳、作りたてだったのかな。昨日より美味しい)
ひょっとしたらそうかもしれない、とも言えるような些細なものだったのかもしれない。けれどアルムはきちんと感じ取り、顔をとろんとさせる。
普段の勇壮さがすっかり抜け落ち、年齢以上にあどけない風采。ルカは思わず笑みを零して、揺り籠のようにゆらゆらと体を揺らし始める。
続けているうち、乳汁を吸い上げる強さが徐々に弱まってきた。上下の目蓋も、今にもくっつきそうになっている。
やがて、アルムはルカの乳頭を銜えたまま眠りに落ちた。
そうっと彼の口から乳頭を外して、寝具の上に横たわらせてやる。うにゃうにゃと唸り声を上げたものの、アルムは起きなかった。
自分のために早朝から奔走していたせいで、疲れが出たのだろう。
謝意を込め、ルカは眠るアルムの目蓋に口づけを落とした。
わたしはしょうきですからしんぱいしないでください
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