かえってきたよ | ナノ
おかえりアルムくん
「本隊から伝達〜。件の砦を無事に制圧したから、大将こっちに向かってるってよ」
番兵から伝え聞いたことを、パイソンはルカの座るテーブルの向かいに腰掛けて告げる。
「本当ですか!?」
「ホントホント。こうやって伝達来るくらいだし、割とすぐに帰ってくるんじゃね?」
ルカの表情は、待機を始めてからいちばん明るいものだった。
ようやくアルムくん地獄から解放されると思うとパイソンも心が軽くなるので、ルカと同じく声色は明るい。
「……アルムくん」
「ルカ。それは大将が帰って来たら思う存分言ってやりなよ」
もう聞かなくて済むだろうし今だけなら連発されても構わないんだけど、なんて思いつつパイソンは言ってやる。
その時なぜか、ルカの視線が自分より何となく上にずれているような気がしたので不思議に思っていると。
「ただいま」
「うわあああっ!!!」
「アルムくん!」
突然後ろから聞こえた声にパイソンは大層驚き、叫び声を上げる。
かなり大きな声だったが、二人とも全く気に留めていなかった。
ルカはもうアルムしか見えていないらしい。倒すような勢いで椅子から飛び降りて、ようやく帰って来た愛しい人の元へと駆けて行く。
「アルムくん、アルムくん、アルムくん!!」
アルムは飛びついて来た小さな体をきちんと受け止めて、強く抱き直す。
「おかえりなさい、アルムくん。早かったですね」
「シルクがワープで送ってくれたんだ。そしたら二人が目の前にいるんだから、精度に驚いたよ」
「シルクさんには感謝しなければいけませんね。パイソンにも」
あ、忘れられてなかった。とパイソンは思った。
ずっと見つめ合っていた二人は彼の方に向き直ると、丁寧に頭を下げて感謝の言葉を述べる。
パイソンの子守りがようやく終わりを告げた瞬間である。胃痛は悪化せずに済んだ。
「いいえ〜。これで俺はお役御免だね。邪魔者は去るんで、水入らずしてちょうだい」
長居は無用とばかりにパイソンは部屋を出て行く。
扉が閉まる音が合図のように、どちらからともなく口づけを交わした。
「会えない間、寂しくて堪らなかったんだ」
「………」
腕の中の愛しい人は俯いて何も反応を返さない。怪訝に思ったアルムが「ルカ?」と顔を覗き込む。
すると彼はアルムの首に腕を回し、息の詰まったような音をひとつ鳴らしてから声を上げて泣き始めた。
「そっか。ルカも寂しかったんだね」
普段の彼らしくない仕草にアルムも初めは驚いたものの、自分と同じ胸の内だった事を知れて愛おしさが湧いてくる。
「これからは一緒にいるから」
言い聞かせるようにルカの背中をぽんぽんと叩く。立場が逆転するのもたまには悪くないなと、アルムは頭の隅でそう考えていた。
大声で泣くとかそれで疲れ寝とか子供の特権だと思うんですよね
ついやらせちゃう
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